一方、長谷川の母は友人とビデオ通話をしながら楽しそうに、マフラーの編み方を覚えたことを自慢していた。
「午後に編んだマフラーを見せるわね。まだ完成してないから、せいぜい半製品ね」
母はマフラーを手に取り、スマホの画面に向けて、相手にじっくりと見せた。
彼女は先ほど庭にいたが、そこは光が良くないと思い、家の中に入ってきたのだ。
相手はそれを見終わると、思わず褒めた。「いいじゃない、随分早く覚えたわね」
母は謙虚に笑いながら答えた。「ちょっと研究しただけよ」
たまたま二人の会話を横で聞いていた長谷川千怜は、信じられないという表情で母親を見つめ、好奇心を持って尋ねた。「ママ、マフラー編めるようになったの?」
母は目を上げ、朝比奈初と千怜がリビングに一緒に座っているのを見て、一瞬戸惑ってから頷いた。
「そうよ」彼女は瞬きしながら言った。初を見ると、なぜか少し心虚くなった。
手にしていたマフラーを母が無意識に動かすと、スマホの背面カメラがちょうどソファを映し、それによって相手は初と千怜を見ることになった。
「娟、そこに座ってるのはあなたの長男の奥さん?」
母はそれを聞いて我に返り、カメラを前面カメラに切り替えたが、相手がすでに見てしまったので、頷くしかなかった。「ええ、そうよ」
「あなたの長男の奥さんは今や有名人じゃない。私の娘なんて彼女をアイドル扱いしてるわ。娟、時間があったら彼女を連れて遊びに来なさいよ」
みんな長谷川彰啓が気に入った女性がどんな魅力を持っているのか、実際に会って確かめたいと思っていたのだ。
母は気まずく笑った。「また今度ね。彼女は明日番組の収録があるから」
二人はその後、簡単に会話を交わして通話を終えた。
千怜は世間知らずといった様子で、母が通話を終えると、その手のひらサイズのマフラーを見つめ、思わず手に取って確認した。
「ママ、これ本当にあなたが編んだの?」
「何言ってるの?私を見下してるの?」
千怜は頷きながら、包み隠さず言った。「確かにママにそんな才能があるとは思えないわ」
母も負けじと言い返した。「お兄ちゃんがあなたのお小遣いを止めるのも当然ね。同情する価値もないわ」