テーブルの上には蓋の開いた保温マグが置かれていた。長谷川千怜は興奮して立ち上がった際、テーブルをひっくり返しそうになった。気づいた時には、マグの水が隣の席の子の教科書に飛び散っていた。
千怜は急いでティッシュを取り出し、隣の席の子に渡した。「ごめん、これで拭いて。ちょっと電話に出てくるね」
「そんなに興奮して?まさか野良男からの電話じゃないでしょうね?」隣の席の子は少し嫌そうな目で彼女を見た。
「野良男よりもっと私を惹きつける人よ」
「……」
千怜は隣の席の子が怒っていないし、追及する様子もないのを見て、携帯を持って教室の外の廊下に出た。
彼女は通話ボタンを押し、落ち着いたふりをして言った。「初、どうして電話してきたの?」
「出てきて。学校の門の前にいるわ」
朝比奈初はすでにしばらく到着していた。
学校は外部の人間の立ち入りを禁止しているため、初は車を近くに停め、外で千怜の授業が終わるのを待っていた。
千怜はその言葉を聞いて、目に驚きの色を浮かべた。「え?学校の門の前にいるの?今?」
初は軽く「うん」と返事をした。「ご飯を持ってきたわ」
「待ってて、すぐ行くから」
電話を切った後、千怜は嬉しそうにはねるように教室に戻った。隣の席の子が水滴の処理を終えたところを見て、少し申し訳なさそうに口を開いた。「ごめん、さっきうっかり教科書を濡らしちゃって」
隣の席の子は「もういいわよ。ご飯食べに行きましょ。遅れたら料理がなくなっちゃうわ」と言った。
千怜は席に戻り、静かにカバンを手に取り、ゆっくりと後ずさりしながらニコニコと言った。「一緒に食べに行けないの。誰かが私にご飯を持ってきてくれたから」
そう言うと、彼女は一目散に走り去った。
千怜は急いで教室から飛び出し、校門を出ようとしたところで、脇にいた警備員に呼び止められ、外出記録を書いてからようやく出ることを許された。
初は彼女のせっかちな様子を見て、口元に淡い笑みを浮かべた。
「どうして急に私にご飯を持ってきてくれたの?」千怜は息を切らしながら初の前に来た。
初は彼女の手からカバンを受け取り、一緒に車を停めている場所へ向かった。「この前、誰かさんがたくさんのコーラを買ってきたでしょ。今日はこっそりそのうち2缶使ってコーラチキンを作ってきたの。味見してみて」