これはただペンで描かれた絵だけなのに、すでに立体感が感じられる。
刺繍職人は朝比奈初の絵を手に取り、じっくりと鑑賞してから思わず言った。「この絵を刺繍にしたら、きっと素晴らしいものになりますね。」
刺繍職人は初の画力に感動したのか、思わず周りの人にも絵を見せ始めた。すぐに刺繍工房の全員がその絵が初の手によるものだと知ることになった。
先ほど初が絵を描くのを間近で見ていた数人の刺繍職人たちは、思わず褒め称えた。「彼女は何も参考にせず、ペンを持って頭を下げるだけで描き始めました。考えたり迷ったりする時間さえありませんでした。」
初は答えた。「私は普通、頭の中に大まかなイメージがあれば十分です。あまり考えすぎる必要はありません。」
考えすぎて複雑になると、かえって筆を動かしにくくなる。
彼女はその最初の印象の感覚が好きだった。輪郭を記憶し、それを細かく思い出し、そして少しずつ拡大していく。
年配の刺繍職人は見て驚きを隠せなかった。「本当に神業ですね。この牡丹はとても写実的で、下絵を見ているだけで花が咲き誇っている感じがします。」
先ほど初に刺繍を教えていた時、彼女の手際の良さを感じていたが、今彼女が描いた牡丹を見て、また感動した。
特に牡丹の花の横にある蝶々のアクセントが素晴らしく、この花が美しく咲き、香りも良いことを常に伝えているようだった。
九十九聴は声を聞いてやって来て、初が描いた牡丹の絵が皆に回し見られているのを見た。世間知らずな様子で、彼は落ち着いて言った。「僕の初姉さんは美術出身なんですよ。こんな絵は彼女にとっては朝飯前です。」
しかし、皆が彼女の創作過程を直接見られたのは、確かに珍しいことだった。
「ただの落書きですよ、皆さんが言うほど良くないです。」初は平然と眉を少し上げ、皆の称賛に対して少し大げさだと感じていた。
【朝比奈さん、謙虚すぎますよ。この「ただの落書き」でも私が心を込めて描いたものより何倍も良いです。本当に参りました】
【九十九くんが朝比奈さんは美術出身だって言ってましたね。どんな専門だったんでしょう?原画マンになりたいので、ぜひ教えを請いたいです】
【九十九聴、お前朝比奈姉さんのこと詳しいじゃんwwww】
【朝比奈さん曰く:姉さんは江湖にいなくても、江湖では姉さんの噂が絶えないのかしら】