斎藤彩が汚した部分は、ちょうど元の模様の上に重なっていた。
刺繍職人は、元の絵を保ちながら、その部分をどうやって完璧に修復するか考えていた。
「どうですか?修復できそうですか?」朝比奈初の側にいた年配の刺繍職人が頭を上げ、しばらく見てから立ち上がって近づいた。
「少し難しいかもしれません」
その場で布を外して洗うのも現実的ではなかった。まだ完成していない部分が多く、汚れた場所も扱いにくい位置にあったからだ。一度でも処理を誤れば台無しになる可能性があった。
年配の刺繍職人はしばらくじっくりと観察し、そこに桃の花が刺繍されていることに気づいた。彼女は筆を持つ刺繍職人に言った。「桃の花をもう一つ足してみましょう」
「でも、そうすると鮮やか過ぎませんか?」
桃の花はピンク色だが、汚れた部分は鮮やかな赤色だったからだ。
朝比奈初は自分の席に座りながら、二人の刺繍職人が対策を話し合うのを聞いていた。彼女は何気なく言った。「つぼみにしてみたらどうでしょう?まだ咲ききっていない花なら色が濃くても違和感がないし、層を重ねて刺繍すればより立体的に見えますよ」
彼女は元の絵を見に行くこともなく、汚れた部分がどの位置にあるのかも知らなかったが、ふと思いついたアイデアを刺繍職人たちと共有した。
年配の刺繍職人は朝比奈の言葉を聞いて、再び布を見下ろすと、突然理解した。
「確かにつぼみならいいですね。大きさもちょうど良さそうです」
【すごい!私が目の前で見ていなかったら、朝比奈さんが言ったことなんて信じられない】
【問題は朝比奈さんが布を見に行きもしないで、そのままアドバイスできるところ。本当にかっこいい】
【年配の刺繍職人:私は根拠をもって彼女が初めて刺繍に触れたわけではないと疑っている。なぜ何でも知っていて何でも思いつくのか】
【朝比奈さんの頭の中には、私たちの知らない驚きがまだあるの?同じ世界に生きていても、頭の中身が違う。朝比奈さんの頭の回転の速さ、なぜ私の頭は全然回らないの、うぅ】
【朝比奈さんは自分の子供が起こした問題の尻拭いをしているような感じ。斎藤さんに問題が起きると、いつも朝比奈さんが後始末してるよね、ハハハハ】
【日々感心するけど、監督は素晴らしい宝物を見つけて、朝比奈さんを私たちに紹介してくれた。本当に大好き】
「試してみます」