朝比奈初はすぐにスマホを取り出し、WeChatのチャット画面で以前のやり取りを探し、重要な数件の内容を山口秘書に見せた。
「この脚本なんだけど、どの映画会社が版権を買ったか調べてもらえる?」
山口秘書は少し驚いた様子で彼女を見つめた。「奥様、芸能界に進出するおつもりですか?」
彼女が今言及した映像脚本は、長谷川一樹のマネージャーが以前送ってきたものだった。
「考えすぎよ。そんなつもりはないわ。一樹側がこの作品に出たがってるの」そう言いながら、初はちょっと舌打ちして首を振った。「脚本自体はいいんだけど、残念ながらいい監督に恵まれなかったみたい」
彼女は条件を出して脅すような監督は、最終的に一樹に出演の機会を与えないだろうと考えていた。
当時、初は映像化までにはまだ時間があると思い、そのまま放置して気にしていなかった。
しかし、彼らが今撮影しているバラエティ番組はすでに中盤から後半に入っており、おそらく一樹側は年明けにはロケに入るだろう。
ちょうど今、彼女は長谷川彰啓のところにいるので、彼の側近の力を借りてこの件を片付けようと思った。
初はこの分野に人脈がなく、間の手続きがどうなっているのかも分からなかったので、山口秘書に頼むしかなかった。
山口秘書は自信満々に言った。「簡単なことです。ただ、調べた後、奥様は小説の映像版権を買い取るおつもりですか?」
「そこまで面倒なことはしなくていいわ。彼らが持っている株式を買収するだけでいいの」
山口秘書はすぐに初の意図を理解し、頷いた。「分かりました。良い知らせをお待ちください」
山口秘書をエレベーターまで見送った後、初はスイートルームに戻った。入ってきた時、彼女は遠くから自分を見つめる視線に気づいた。
ちょうどドアが開く音を聞いて、彰啓は思わず顔を上げ、視線が初の姿に数秒間留まった。
しばらくして彰啓は目を伏せ、再びパソコン画面を見つめ、初が近づいてくると、何気なく尋ねた。「二人で外で何をひそひそ話してたんだ?」
「何でもないわ。ちょっと用事を頼んだだけ。あなたには関係ないことよ」
「……」
本来、彰啓はただ何気なく聞いただけだったが、「あなたには関係ない」という言葉を聞いた瞬間、心に綿が詰まったような、少し息苦しい感覚が生まれた。