長谷川彰啓は眠そうな様子で、眉間には少し迷いの色が浮かんでいた。ゆっくりと、彼は朝比奈初の顔立ちをはっきりと認識し始め、瞳の奥に淡い優しさが広がった。
最初、初は自然な振る舞いを見せていたが、なぜか突然彰啓の深い瞳と目が合うと、彼女の表情はどこか心許なさげになり、心拍数も明らかに速くなったように感じた。
彼女の呆然とした表情を見て、彰啓は疑問の色を浮かべ、低く落ち着いた声で少し怠そうに尋ねた。「どうしたの?」
初はまばたきをして、小さな声で答えた。「……目覚まし時計が鳴ったの。」
言い終わると、初は素早く身を翻し、ベッドサイドテーブルから携帯を取って目覚ましを止めた。
おそらく昨日のスキーで二人とも体力を消耗し、さらに夜に戻ってから仕事の処理に追われて睡眠時間が短くなったせいで、二人ともぼんやりとした状態だった。
普段ならこの時間に彰啓はジムで1時間トレーニングをしてから出勤するのだが、今日はジムに行く様子もなく、出勤を急いでいるようにも見えなかった。
初は自分の準備に忙しく、他のことに気を配る余裕がなかった。彰啓が朝食のルームサービスを頼み、彼女に食べるよう促すまで、彼の存在に気づかなかったほどだ。
彼がのんびりとした様子を見て、初は少し不思議に思った。「仕事に行かなくていいの?」
彰啓は彼女にサンドイッチと温かい牛乳を渡しながら言った。「先にあなたを空港まで送るよ。」
初は軽く「あぁ」と返事をしただけで、それ以上は何も言わず、座って静かに朝食を食べ始めた。
——
汐見市、夜7時頃
斎藤彩は祖母と夕食を共にするために帰宅していた。
彼女は帰る前、これが父親の計画だろうと思っていたが、電話をかけてきたのが祖母だったため、彩は祖母の顔を立てて承諾したのだった。
彩は毎回帰宅すると、まるで自分が部外者であるかのような気分になった。特に央が家にいる時は、その感覚が一層強くなった。
彼女はいつものように祖母の隣に座り、他の家族からは遠く離れていた。
食卓で、斎藤の父が突然央に質問を投げかけた。「央、来年卒業したらどうするつもりだ?まだ芸能界で活動を続けるのか?」
央はしばらく黙ってから答えた。「うん。」