長谷川彰啓は書類を受け取り、パラパラとめくって一通り目を通した後、机の上のペンを取って名前を書いた。
長谷川彰啓がペンを置くのを見て、山口秘書は自ら前に進み出て書類を回収した。その時、ふと横にある画面が点いたスマホに目が引かれ、動きをそっと緩めた。少し顔を傾け、思わず彰啓のスマホ画面に視線を送った。
最初は恐らく気まずさからはっきり見えなかったうえ、反射もあって、山口秘書はただ輪郭、白い肌と豊かな長い巻き毛を簡単に確認しただけだった。
女性?
長谷川社長が勤務時間中に美女の写真を見ているだと?
これで山口秘書の好奇心はさらに掻き立てられた。
彰啓がペンのキャップを閉める瞬間を狙って、山口秘書はわざと腰を曲げて余計な反射光を遮り、堂々と覗き込んだ。
ちょうどその時、彰啓はペンを置き終え、山口秘書がまだそこに立っているのに気づき、彼の視線の先にあるスマホに目を向けた。
彰啓は鷹のような目を細め、冷たい声で言った。「見て楽しいか?」
山口秘書は真摯な表情で答えた。「はい、綺麗です。」
次の瞬間、彰啓の骨ばった大きな手が画面の上に覆いかぶさり、スマホを持ち上げた。
「年末ボーナス、半分減らす。」
山口秘書はそれを聞いて、顔の表情が一瞬で崩れ落ち、不満げに言った。「いや...社長、なぜですか?」
「お前が言ってみろ。」
「社長、これは交渉の余地はないんですか?」山口秘書は心の均衡を保つのが難しく、何もしていないのに、ただ上司のスマホを盗み見ただけで年末ボーナスの半分を減らされるのは厳しすぎると感じた。
「なんだ?半分残してやるのに不満か?」
彰啓の鋭い眼差しを見て、彼は歯を食いしばり、苦笑いしながら答えた。「いえ、満足です。社長、あなたは本当に慈悲深いです。」
あの「綺麗です」という一言がなければ、全額没収されていたかもしれない。
彰啓は少し頭を傾け、ドアの方向を見て合図した。「満足なら、何をぐずぐずしている?出て行け。」
山口秘書は軽く「はい」と答え、書類を抱えてオフィスを出ようとした。しかし、彼が数歩も歩かないうちに彰啓に呼び止められた。「待て。」
「社長、何かご用ですか?」過去の経験から判断すると、山口秘書は自分に更生のチャンスを与えてくれるだろうと思った。