「先に車庫に行って車を出してくるよ」
朝比奈初が車庫へ向かって去ると、江川航はすぐに笑顔を引き締め、長谷川彰啓に視線を向けた。
江川は少し眉を上げ、皮肉っぽく口を開いた。「そういうことか。どうして急に俺たちと遊びに行くって言い出したのか不思議だったんだよ。わざわざ青葉市を選んだのも。お前の可愛い人が一人で出かけるからじゃないか」
彰啓は平然と返した。「お前が誘ってきたんじゃないのか?」
「まさかお前が一人になるとは思わなかったよ」
彰啓は黙った。
航は少し残念そうにため息をつき、言った。「昨日の夜、なんで言わなかったんだよ。そういうことなら、二人きりの時間を作ってあげたのに」
もし昨夜彰啓がこのことを彼らに話していたら、今日は適当な理由をつけて身を引いていただろう。絶対に邪魔はしなかったはずだ。
航は「今から引き上げようか?」と提案した。
「必要ない」彰啓は確かに二人きりの時間が欲しかったが、こんな状況下ではなかった。
「お前がそう言うなら」彰啓がこのチャンスを断るのを見て、航は彼の意向に従った。「それならちょうどいい。みんなもまだ義姉さんに会ったことないしな」
「みんな?」
「言い忘れてた。昨日の夜、黒崎雄介たちとビリヤードをしてたんだ」
……
しばらくして、初が車を別荘の前庭に乗り付けると、みんなで彼女の荷物を車に積み込むのを手伝った。
初がお礼を言った後、運転席に回り、ドアを開けて乗り込もうとしたとき、彰啓が彼女の方へ歩いてくるのが見えた。
彼女は顔を上げて彰啓を見つめ、眉に少し疑問の色を浮かべた。「何かあった?」
「俺が運転する」
初はその言葉を聞いて、少し驚いた様子で、表情を崩さずに言った。「あなたが私の運転手になるの?」
初の質問に対して、彰啓は直接否定せず、彼女を見下ろしながら、顎を少し上げて助手席の方を示した。「そっちに行け」
「あなた…」初は振り返って、航の車に乗るよう言おうとしたが、航の車はもう門をほとんど出ていた。
初は「やっぱり私が運転するわ。着いたら降ろしてあげる」と言った。
航があんなにさっさと行ってしまったので、初には彰啓を車に乗せない理由がなくなった。
「着いたら代わる」
「……」初は彼に言い負かされ、仕方なく助手席へ向かった。