長谷川彰啓はその言葉を聞くと、横にあるテレビに目を向けた。
高精細なLED大画面に映っている写真は、罪を犯した男性で、両目にはモザイクがかけられていた。画面の下部には小さな文字で、今回の事件のタイトルが表示されていた。
目にモザイクがかかっていても、朝比奈初は他の顔の部位を観察することで、この人物に会ったことがあると確信できた。そうでなければ、少し見覚えがあるとは思わないはずだ。
長谷川彰啓がテレビに視線を固定した瞬間から、彼はすぐに相手の身元を認識した。
彰啓にとっては見覚えがあるどころではなく、前回のパーティーで初に部屋のカードキーを渡した男性は、まさに写真の中の男だった。
今夜このニュースを見ても、彰啓はまったく驚かなかった。
ニュースでは、神谷某が売春の利用で通報され、警察の調査によると、彼は複数回売春を利用し、行為が悪質であったため、15日間の拘留と5000元の罰金が科せられたと報じていた。
この事件が明るみに出た後、神谷が所属する会社の株価に影響が出て、現在下落中だという。
「見覚えがあるんだけど、思い出せないわ」テレビの写真が引っ込められ、司会者が次のニュースを報じる準備をしても、初の疑問は解消されないままだった。
彰啓はゆっくりと視線を初に移し、眉を上げて言った。「それでいいじゃないか?君の脳には自動的にゴミをフィルタリングする機能があるということだ」
思い出せないほうがいい。
こんな品行の低い人間は彼女の前に現れるべきではない。
初は彼がこんなユーモアのある言葉を言えることに、解けなかった疑問も消え去り、唇の端に薄い笑みを浮かべた。「ふん...それは褒め言葉として受け取っておくわ」
「ああ、褒めているんだ」
初はさらにいくつかのニュースを見て、髪に残っていた温もりが普通の温度になるまで待ってから、テレビを消して横になり、眠りについた。
翌朝、江川航は30分以上かけて長谷川邸に到着し、ちょうど初が出かける前に姿を現した。
「おはようございます、お義姉さん」初の大きなバックパックや様々な撮影・絵画道具を見て、航は興味深げに尋ねた。「遠出するんですか?」
初は軽く「うん」と返した。「そうよ、あなたたちも青葉市に行くって聞いたけど?」