「そうね。」朝比奈初がこの池に興味を示しているのを感じ、長谷川家のお祖母様は尋ねた。「釣りをしてみない?とても楽しいわよ。」
朝比奈初が承諾も拒否もしないのを見て、お祖母様は執事に釣り道具を持ってくるよう指示した。
執事から釣り道具を受け取った初は、少し恥ずかしそうに口を開いた。「お祖母様、でも私、釣りの仕方がわからないんです。」
お祖母様は笑いながら言った。「大丈夫よ、後で彰啓に教えてもらいなさい。この老婆が今夜魚を食べられるかどうかは、あなたたち次第よ。」
初は手の中の釣り道具を見下ろし、眉を上げて言った。「それなら、本当に釣らないといけませんね。」
「彰啓、彼女に教えてあげて。」
長谷川彰啓は「……」と言葉を失った。
実際、魚を一匹捕まえたいなら、池に餌をひとつかみ撒いて、魚が全部集まってきたところで網ですくえばいいだけで、釣り竿など全く必要ない。
お祖母様が優しい笑顔を浮かべ、まるで子供をあやすような温かい眼差しを向けているのを見て、彰啓はその場の空気を壊すのを躊躇った。
お祖母様は池を二人に任せると、静かな場所を見つけて座り、遠くから二人が奮闘する様子を見守っていた。
執事はお祖母様の意図を理解していないようで、好奇心を持って尋ねた。「奥様、魚が食べたいのでしたら、私がすくってきますが、どうして若旦那と奥様に直接やらせるのですか?」
「それがわからないの?これは『酔翁之意不在酒』というものよ。」
執事は「でも奥様、私はつい先ほど魚に餌をやったばかりです。みんな満腹のはずで、釣れないかもしれませんよ?」
釣れないほうがいいのよ。「そうすれば彼らはもっと長く一緒にいられるわ。」
お祖母様は彼らと過ごす時間が短く、二人が一緒にいる姿を見る機会も稀だったが、観察した限りでは、この夫婦の接し方はあまりにも礼儀正しすぎると感じていた。
おそらく二人が長い間離れていたせいだろう。だからこそお祖母様はわざと二人に自分を送らせ、ちょうど裏庭を案内して、釣りをさせることにしたのだ。
思いがけず初が釣りができないとは、まさに天の助けだった。
「この餌はどうやって付けるの?」
「俺がやるよ。」彰啓は彼女から釣り竿を受け取り、餌を針に付け、それから釣り針を池に投げ入れた。
初は「……」と黙った。
自分が少し余計な存在のように感じた。