第205章 ハグ_2

江川航の声が長谷川彰啓の耳に届き、彼は眉をわずかに寄せた。

朝比奈初は平然とした様子で、目には何の波風も立たなかった。

しばらくして、初は自ら一歩前に進み、目の前の男性を見上げ、やや柔らかな声で言った。「じゃあ、ハグしましょうか。」

彼女は堂々と両腕を広げ、彰啓のコートの袖の内側に手を通し、体を少し前に傾けながら、彼の上着の両側をそっと掴んだ。

初の抱擁は、柳を撫でる風のように、かすかな波紋を残すだけだった。

空気の中に淡い上品な香りが混ざり、腰の辺りの服が彼女に掴まれて、わずかに引っ張られる感覚。これらすべてが、この瞬間が現実であることを彼に告げていた。

瞬時に、彰啓は我に返り、本能的に手を上げて彼女の背中に軽く添えた。

単純なハグは、航の目には何でもないことだったが、彰啓がこれほど近くで女性に接近するのを初めて見たとき、彼の表情はやや豊かになった。

このハグはわずか2、3秒続いただけで、離れる時、初は顔を上げ、彼に向かって明るく微笑んだ。「気をつけて行ってらっしゃい。」

おそらく先ほどの出来事があまりにも急だったため、彰啓はまだ完全に反応できていなかった。

今や彼らは空港への道中にあり、航は彼に何か話しかけていたが、彰啓は心ここにあらずといった様子で、まったく真剣に聞いていなかった。

航はバックミラー越しに彼を一瞥し、少し嫌そうに口を開いた。「お前の魂、家に置き忘れてきたんじゃないか?」

彰啓は「……」と黙った。

状態を立て直し、先日のことを思い出した彰啓は、余計な一言を口にした。「前に頼んだ件はどうなった?」

航は頼もしげに胸を叩いた。「俺に任せておけって。安心しろよ。」

——

長谷川千怜の学校では最近、校内運動会の準備が始まり、各クラスですでに参加者数の集計が行われ、放課後には行進の練習も組織されていた。

今日の午後、千怜のクラスは体育の授業があり、運動会に参加登録した生徒たちは体育の時間の合間を利用して練習に励み、応援団になる生徒たちも個別に応援の掛け声を考えていた。千怜だけが暇を持て余していた。

何人かの生徒が、木陰に立って何もすることがない千怜を見て、突然近づいて話しかけてきた。「長谷川千怜、女子1500メートル走にエントリーしたんじゃないの?どうして練習しないの?」