朝比奈初はその場に立ち尽くし、一瞬、自分が幻聴を聞いたのではないかと思った。
なぜなら、長谷川彰啓がこのような要求を突然持ち出すとは、どうしても想像できなかったからだ。
彼女は穏やかな口調で、少し驚きを含ませて言った。「今、ということ?」
初はまっすぐ部屋に戻り、自分のスーツケースを持ってチェックアウトの準備をした。すると彼女は彰啓が軽く「うん」と返事をするのを聞いた。「君はずっと海外に行きたがっていたじゃないか?後で航空券を手配させるから、数日間遊びに来ないか。俺が付き合うよ」
初はそれを聞いて、思わず尋ねたくなった。「私が頭おかしいの?それともあなたが?」
確かに彼女には海外旅行の希望があったが、番組収録が終わったばかりですぐに飛び立つほど切迫してはいなかった。しかも彰啓には仕事があるはずで、彼女に付き合う時間なんてないだろうと分かっていた。
しかし、ここ数日の初の気分は確かに少し憂鬱だった。ちょうど彰啓の「数日間遊びに来ないか」という言葉に、少し迷った後で心が揺らいだ。
「いいわよ、じゃあ後でまた連絡して」彰啓が忙しくても、自分一人で気晴らしに出かけることはできる。
電話を切った後、初はスーツケースを持って民宿を出て、番組スタッフが手配した車に乗り込んだ。
空港へ向かう途中、初は彰啓から送られてきた航空券の情報を受け取った。
「一樹、あとで私はあなたと一緒に帰らないわ」
長谷川一樹は椅子の背もたれに寄りかかって目を閉じていたが、初が話しかけてきたのを聞いて、ゆっくりと目を開け、好奇心を持って尋ねた。「どこに行くの?」
初は携帯を彼に渡し、フライト情報を見せた。
一樹は彼女の携帯画面を2、3秒見つめ、そこに表示された情報をはっきりと確認すると、驚きの表情を浮かべた。「海外に行くの?」
彼の表情が大げさなのも無理はなかった。このニュースがあまりにも突然だったため、周りの出演者たちも彼らの方から聞こえてきた動きに気づいて、次々と振り向いた。
この時、生放送はまだ続いており、オンラインの視聴者全員が一樹が無意識に朝比奈の予定を暴露したのを聞いていた。
【えっ?!朝比奈さんが海外に?】
【番組収録が終わったばかりなのに海外?もしかして朝比奈さんはずっと海外に住んでいたの?】