長谷川一樹が朝比奈初がナイフを手に取るのを見て、先ほど斎藤央が手を切った場面を思い出し、眉をひそめながら思わず注意した。「そのナイフはとても鋭いから、僕にやらせてください。手を怪我しないように」
初はジャガイモとナイフに集中しながら、無造作に一樹に返した。「あなたもそれが鋭いって知ってるでしょ?人が変わったところで怪我をしないとは限らないわ」
一樹は真面目な顔で言った。「僕は皮が厚いから、怪我なんて気にしないよ」
一樹の自虐的な言葉を聞いても、初は動じなかった。「それはダメよ。あなたまで手を怪我したら、この数日間誰が料理を作るの?ニンニクの皮むきをやってくれる?私はもうすぐ切り終わるから」
【なんて皮が厚いんだ!長谷川一樹、お前は話し上手だな】
【お前何言ってるんだ、お前の命も命だろ】
【朝比奈さんは長谷川君に危険なものを触らせたくないから、そう言ったんじゃない?】
【言われてみれば、この二人の関係はすごくリアルだね。本当に実の姉弟みたいだ】
【ああ~一樹は優しい男確定!この子いつ恋愛するの?お姉さんにチャンスをくれない?私があなたの奥さんになりたい!】
今日のお昼ご飯は一樹が料理を担当し、初と佐伯莉子が材料の準備をして彼をサポートすることになっていた。
初は今日使う全ての食材の処理を終えると、まな板と包丁をきれいに洗って元の場所に戻し、ついでにテーブルの上の生ゴミも片付けた。
テーブルを拭き終わって振り返ると、一樹がガスコンロの前でスマホをいじっているのが見えた。不満そうに眉をひそめ、「私たちが全部準備したのに、あなたまだスマホ見てるの?」と言った。
一樹は「黄焖鶏(ホアンメンジー)の作り方を確認してるんだ」と答えた。
初は近づいて彼のスマホ画面をちらりと見ると、黄焖鶏の詳細な作り方が表示されていた。何か言いたそうな表情を浮かべた。
一瞬後、初は「じゃあゆっくり見てて」と言い残してキッチンを出た。
最初は彼に指導しようと思ったが、よく考えると彼に自分でやらせた方がいいと思い直した。
初がリビングに入ると、ちょうど皆がゲームをしているところだった。
張本詩織が「朝比奈さん、一緒にゲームしませんか?」と声をかけた。
「何のゲーム?」
「『あなたにあって私にないもの』です」
初は眉を少し上げ、だるそうに「いいわよ」と答えた。