午後、雲の中に太陽の影は見えず、空は徐々に暗くなり、冷たい空気が至る所に漂っていた。
長谷川彰啓は今日の午後、クラブハウスで二組の顧客と別々に会った。
ここ二日間、彰啓は交渉に忙しく、ほとんどの時間を外で顧客と会うことに費やしており、今日も例外ではなかった。
「準備しておいて、月初めに帰国する」顧客との会話が終わった後、彰啓は手元の書類を山口秘書に手渡した。
「はい……え?」山口秘書の反応は追いつかず、彰啓の指示を聞いて、彼の顔に驚きの色が浮かんだ。しかしすぐに我に返り、「クリスマスまでここにいると思っていました」
彼が少し落胆し名残惜しそうな様子を見て、彰啓は少し眉を上げ、冷ややかに言った。「じゃあ、お前は残るか?」
山口秘書は必死に首を振った。「長谷川社長、私はもうここに3ヶ月もいるんです。どうか帰らせてください……こんなに一生懸命働いている私のために、年末休暇をもう少し長くしていただけませんか?」
彰啓は先日一週間ほど帰国していたが、山口秘書はこちらに来てから一日も離れることなく、毎日終わりのない仕事に追われ、時差の問題で家族との連絡も取りづらかった。
一年365日のうち、山口秘書はおよそ200日を彰啓の出張に同行して過ごしており、年末休暇を数日多く申請することは決して無理な要求ではなかった。
「まずは目の前の仕事をきちんと片付けろ」彰啓は直接的な返事はしなかったが、これも一種の黙認の返答だった。
山口秘書は口元を緩め、隠しきれない喜びを目に浮かべながら笑って言った。「かしこまりました」
二人がこの話を終えた後、一緒に応接室を出た。
クラブハウスのロビーに着くと、遠くから二人の体格のいい男性が歩いてきて、彰啓たちの方向に近づいてきた。
「長谷川社長、あの人はブライアンさんのようです」山口秘書はすぐに彼らの方へ歩いてくる男性がブライアンだと気づいた。
彰啓はそれを聞いて、目を上げて前を見た。
彼の方へ歩いてくる男性はキャラメル色のコートを着て、なびくライオンのような髪型をしており、顎の両側には髭を生やし、黒いブリティッシュブーツを履いて床と接触するたびに、時折鈍い音を立てていた。
ブライアンの後ろにいるもう一人の男性は彼の個人秘書だった。
彰啓が口を開く前に、ブライアンが先に笑顔で挨拶した。「やあ、長谷川さん!」