「どう?」長谷川彰啓の携帯が何度も震えるのを聞いて、江川航は二人の会話もそろそろ終わりだろうと思い、興味深げに尋ねた。「奥さんの方は問題ないでしょ?」
「問題ない」
彰啓の難題を軽々と解決してあげたことで、航は少し得意げになった。「だから言ったじゃん、絶対問題ないって」
——
夕方になると、朝比奈初はカメラの前に姿を現さなくなった。
初は、彰啓が断れない食事会があるということは、きっと重要なものに違いないと考えた。自分も少し気合を入れるべきではないだろうか?
そこで彼女は早めに部屋に戻り、外出の準備を始めた。
初のスーツケースにはそれほど多くの服を持ってきていなかったので、選べるスタイルも限られていた。だからすぐにコーディネートを決めることができた。
服装を選んだ後、初は番組撮影に化粧道具を持ってきていないことに気づいた。篠田佳織から化粧品を借りて化粧するしかなかった。
佳織の部屋はちょうど初の隣だった。
初がドアをノックして佳織に化粧品を借りたいと言うと、佳織は少し驚いた様子で「出かけるの?」と尋ねた。
初は笑顔で答えた。「うん、ここで化粧してもいい?」
「いいよ、どうぞ」佳織は分別をわきまえており、初が誰に会いに行くのかは聞かずに、すぐに気前よく化粧品を貸してくれた。
「ありがとう」
初は簡単に薄化粧をし、自分の部屋に戻って細部を整え、靴と上着を着て、バッグを持って階段を降りてきた。
階段から物音がしたのを聞いて、長谷川一樹は思わず振り向いた。階段を降りてきたのは初だった。
初が近づいてくると、一樹は驚いた表情で彼女を見つめた。「化粧したの?」
一樹は彼女を見上げ、初がウールのコートを着て、茶色のロングブーツを履いていることに気づいた。髪はふんわりとしていて、なめらかだった。
どう見ても外出するためのスタイルだった。
【朝比奈さん、化粧してる?あんまり変わらないけど...朝比奈さんが服装変えたのは見たよ、結構フォーマルな感じ...これって出かけるってこと?】
【第一回から今まで見てきたけど、カメラの前で朝比奈さんが化粧するの一度も見たことないよ。若旦那が言わなかったら、朝比奈さんが化粧してるなんて気づかなかった!】
【朝比奈さんはバラエティ番組でも化粧しないのに、今回は本当に羨ましいな、朝比奈さんに化粧させる人って】