二人が互いに感情を抱くようになった時点で、朝比奈初が言った「連れ添って、余生を共に過ごす」という言葉は、もはや表面的に一緒に暮らすという意味ではなくなっていた。
長谷川彰啓も当然、彼女の言葉の意味を理解していた。
彼女の側に寄り添うことは簡単だが、彼女の心に入り込むのは難しい。
朝比奈初の心の内を彼はずっと見抜けなかったし、彼女の弱点を見つけることさえ困難だった。
彼女は彰啓を見つめ、静かに口を開いた。「もう少しよく考えてみたら?しっかり考えてから私に関わってきて」
ちょうど彼女自身も、自分の気持ちを見極めるための時間が必要だった。彼に対する感情は感謝なのか?それとも好意なのか?
否定できないのは、彼女が彰啓に対して少なからず好感を持っていることだった。
結局のところ、彰啓はあらゆる面で優れていた。若くして事業で成功し、聡明で有能、性格は落ち着いていて、繊細な心遣いができ、女性を尊重することも知っていた。
彼のようなほぼ完璧な男性を見て、垂涎しない女性はいないだろう。
彼女が長谷川夫人になれたのは、単に早くから知り合っていたという優位性があったからか、あるいは彼女の不幸な身の上が理由だったのかもしれない。
初は当初の契約書の中に、単なる偽の夫婦関係だけでなく、誠実さと信頼も見出していた。
結婚後も彼女の自由を制限せず、日常の出費も提供し、彼女のどんな決断も尊重し、もし離婚したいと思った日には彼女からの申し出だけで終わらせることができる……
もちろん、これらは初がこの結婚を受け入れた理由ではなかった。
ただ、その契約書から彰啓が体裁を整えるための妻を必要としていることを知り、恩義に報いるつもりで署名したのだ。これも長年の間、彼女が彰啓の前で少しは役に立ったということだろう。
——
初は彰啓が昨夜どのように眠ったのか知らなかったが、少なくとも彼女自身はぐっすり眠れた。
目覚めた時、寝室に彰啓の姿はなく、無意識のうちに彼が会社に行ったのだろうと思った。
初が身支度を整えて階下に降りてみると、意外にもキッチンでサンドイッチを作っていたのは彰啓だった。
初がキッチンの方へ歩み寄り、彰啓を見て驚いて尋ねた。「会社に行かないの?」