第25章 この女は本当に度胸がある

鈴木慧は決心を固めた。田中純希は自分がお客だと言ったが、今日はどちらかというと彼女の財布を大出血させるか、面子を潰すかだ。高級ホテルに食事に来て料理も注文できないなんて、さぞかし恥ずかしいだろう。

純希は本当に食事の個室の名前を忘れてしまったが、17階にあることだけは覚えていた。

慧の目に軽蔑の色が濃くなったが、自分の立場を考えて、これ以上失礼な言葉は口にしなかった。

「田中さんは、私への賠償金をどうするか考え直した方がいいですよ。私の職場に来て迷惑をかけないでください。ここのお客様は誰一人としてあなたが無礼を働いていい相手ではありません」

純希は怒りで表情を作れなくなった。彼女が迷惑をかけている?冗談じゃない、明らかに最初に駆け寄って質問してきたのは慧の方だ。

純希は時計を見た。もうすぐ12時だ。今からゆっくり個室に向かっても、ちょうど食事の時間になるだろう。

彼女は内心で笑いながら言った。「私は食事に来たと言っているのに、予約した個室の名前を忘れただけです」

慧は純希の笑顔を引き裂きたいほど腹が立った。この笑顔は見ていて本当に目障りだった。まだ芝居を続けるつもりか。個室?ここを何か小さな食堂だと思っているのか?

慧は作り笑いを浮かべて言った。「それなら簡単です。田中さんをご案内しましょう。フロントに記録がありますから」

純希は慌てて言った。「フロントに確認する必要はありません。だいたいの場所は覚えています」

心虚になったか?慧は彼女がどんな芝居を演じるのか見てみたかった。

彼女は先に立って案内しながら言った。「フロントに確認しなくても結構です。田中さんが本当に予約した個室を見つけられることを願います。はっきり言っておきますが、今日は社長が視察に来ています。恥ずかしい行為はしないでください。あなた自身の面子はともかく、私たちスタッフの立場も考えてください」

純希は慧の背中に向かって拳を振り上げたが、慧が振り返った瞬間に手を下ろし、白目を向けながら元の場所に戻った。彼女はエレベーターで直接17階のボタンを押した。

慧はまぶたを痙攣させながら言った。「田中さん、押し間違えていませんか?」