第210章 すべては死んで証拠なし

渡辺健太は埠頭に到着し、彼は車を古びた倉庫の前に停めた。倉庫を警備していた男たちが銃を持って彼のボディチェックを行い、彼が持っていた拳銃は当然のことながら没収された。

彼が中に入ると、渡辺厚志が座っており、その周りには十数人の武装した部下たちがいた。これだけの銃口が自分に向けられているにもかかわらず、健太の顔には少しの恐れも見られなかった。彼は尋ねた。「田中純希はどこだ」

厚志は狂ったように笑った。「私の優秀な甥よ、お前はとても頭がいいのに、どうしてこんな場所に騙されて来たんだ？」

彼は手元の機械のボタンを押すと、そこから純希の声が流れた。「健二！」

厚志は首を振りながら言った。「渡辺社長にも愚かな時があるものだな。私は田中純希のお前への影響力を過小評価していたよ。彼女の声を聞いただけで飛んできて、情報の真偽すら確かめなかった。あの女はまだ家で寝ているかもしれないのに、お前の死活など気にかけているのかね？残念だ！本当は彼女も連れてきて、最後の対面をさせてあげるべきだったな」

この臨江埠頭はもちろん人質が隠されている埠頭ではなかった。厚志は狡猾で疑い深く、自分の切り札をすぐに見せるはずがなかった。

彼は会話の中で純希が自分の手中にあるという情報を一切漏らさなかった。彼はやはり健太の手段を恐れていたのだ。

もし今日健太が死ななかったり、彼に対抗する後手を用意していたりした場合、その時こそ純希を利用するときだった。

健太は時間を稼ぐために言った。「七の大叔父様の葬儀が終わったばかりだが、彼の遺言があなたに何を残したのか知りたくないのか？」

厚志は近づいて健太の腹部に一発パンチを食らわせた。「あの老いぼれが私に何を残せるというんだ？彼はいつ私を渡辺家の人間として扱ったことがある！」

健太は腹部の痛みに耐えながら言った。「七の大叔父様はあなたに株式の10パーセントを残しました。彼はあなたが南アフリカでやったことを何も知らず、あなたを国外追放した過去の悔いを償おうとしていたんです。誰が知っていたでしょうか、とても頭のいい二叔父さんにも愚かな時があるとは。遺言を確認せずに、先に殺しの手を下して自ら袋小路に入ってしまうとは」

厚志の顔に困惑の色が浮かんだ。彼はつぶやいた。「株式の10パーセント、それに私が持っている分を加えれば…」