山田雪はショッピングストリートに歩いていくと、そこの販売員はアジア人観光客に特に熱心で、アジア人を見かけるとまず日本語で「いらっしゃいませ、ようこそ!」と声をかけてきた。
彼らはどうやら韓国人を無視しているようで、潜在意識の中で日本人を主要な消費者層と見なし、多かれ少なかれ日本語を話せるようだった。
雪は典型的な東洋美人で、彼女がアクセサリーショップに入るとすぐに、二人の販売員が熱心に近づいてきて、標準的な日本語で「いらっしゃいませ、何かお手伝いできることはありますか?」と言った。
雪は「ネックレスを見たいんですが」と言った。
販売員は雪が日本語を話すのを聞いて、さらに笑顔を深めた。「新作が入荷したばかりですよ。こちらへどうぞ」
雪はカウンターの前に立ってネックレスを見ていた。ここには雑誌で紹介されていた新作が2点あり、国内の店舗にはまだ入荷していなかった。
彼女が試着している時、聞き覚えのある男性の声が聞こえた。「これをラッピングしてください、ありがとう」
雪は不思議に思って見てみると、彼女の右前方のカウンターに背の高い男性が座っていた。男性はカジュアルな服装で、端正な横顔は玉のように滑らかだった。
異国で知り合いに会うなんて、本当に偶然だった。
男性は誰かが自分を見ていることを感じたようで、振り向くと彼女の視線と合った。
木下智樹は数回まばたきをして、自己の思いが高じて幻覚を見ているのかと思った。彼女がなぜパリにいるのだろう?
雪は彼に微笑みかけ、智樹はようやく我に返った。彼は少し緊張しながら近づいてきて、「いつ来たの?一人?」と尋ねた。
彼女はずいぶん痩せていた。智樹は考えるまでもなく、それが中島陽太のためだということを知っていた。
智樹は陽太を憎んでいたが、彼女の全てを手に入れた彼を羨ましくも思っていた。
本当に運命は人を弄ぶものだ。もし誰かを愛することがこれほど苦しいものだと知っていたら、最初から自分を沈めるべきではなかった。しかし、それは彼がコントロールできるものではなかった。
雪は「うん、一人よ」と言った。
そのとき、販売員が袋を彼に手渡した。「お客様、ご注文のブレスレットの準備ができました。お支払い方法はどうなさいますか?」
雪はその袋を一瞥して、「ブレスレットを買いに来たの?」と尋ねた。