第321章 指輪がない

田中純希は渡辺健太に本社に連れ戻され、万凌エンタメにも行かせてもらえず、彼のオフィスで待機するしかなかった。

純希はソファに座って不機嫌になり、真川秘書が温かい水を注いでくれたが、彼女は飲みたくなかった。「真川秘書、喉は渇いていません」

健太はデスクの後ろから彼女を一瞥し、書類に目を通しながら言った。「撮影現場は混乱していて、怪我をさせたくなかったんだ」

純希は彼を無視したいと思った。「家に帰って娘に会いたい」

健太はペンを置いた。「純希、言うことを聞いて」

純希は腕を組んだ。「なぜ私があなたの言うことを聞かなければならないの?それは男尊女卑よ!」

真川秘書は彼女を説得した。「奥様、社長は今日、東江グループの取締役とゴルフをする予定でしたが、あなたが撮影現場に行くと知って予定をキャンセルしたんです...奥様、社長のことをもう少し理解してあげてください」

純希は黙って真川秘書を見つめた。

真川秘書の表情は硬くなった。「では、私は先に仕事に戻ります」

純希は彼女を呼び止めた。「真川秘書、そのネックレスはいつ買ったの?とても素敵ね」

真川秘書はネックレスに手を当てた。「これですか?これは、社長からいただいたものです」

「いつもらったの?」

もし間違っていなければ、このネックレスは以前彼の休憩室で見たことがある。

彼の休憩室の棚に隠されていたプレゼントのうち、彼女にはほんの数点しか贈られておらず、他のものを贈る機会がないまま、彼女は延城を離れてしまった。

彼女が戻ってきたとき、彼の休憩室を見たが、がらんとしていて、以前のプレゼントはすべて消えていた。彼女には彼に尋ねる機会もなかった。

それらのものをすべて合わせれば、延城の中心部で高級マンションを買えるほどだった。まさか全部真川秘書にあげたのではないだろうか?

真川秘書は言うべきかどうか迷ったが、社長の表情に特に変化がないのを見て、正直に答えた。「2年前、社長が退院して間もなく、オフィスと休憩室の改装が始まった時に、社長からいただきました」

彼女はこれらのものが社長が奥様に贈るつもりだったことを知っていた。残念ながら、当時奥様は去ってしまい、社長は物を見て人を思い出したくなかったので、太っ腹に全部彼女にくれたのだ。

やはり純希が思った通りだった。