田中純希は娘が小さなバッグを引きずりながらドアに向かって歩いていくのを見て、苦笑いした。おじいちゃんとおばあちゃんがこの小さなバッグを買ってからというもの、娘はどこへ行くにもそれを持ち歩いていた。
小林筠彦が後ろについて行き、「おばあちゃんが愛希を連れて行くわ」と言った。
愛希ちゃんは「ママも行く」と言った。
純希は携帯を手に取り、「いいわよ、一緒に行きましょう」と言った。
彼女たちが渡辺千景の部屋の前を通ると、愛希ちゃんは顔を上げて「しー」と言い、「おばちゃん怖い」と付け加えた。
つまり、彼女たちに静かにするよう言っているのだ。おばさんが怒るのを恐れているのだ。
純希と義母は目を合わせ、筠彦は「このチビ、三、四歳の子並みに物事を考えているわね」と言った。
純希は心の中で、愛希は千景よりずっと賢いわ、千景の知能は渡辺家の足を引っ張っているわよ!と思った。
三人はゴルフカートに乗り、ゴルフコース脇のジムまで回った。愛希は車に乗って観光するのが大好きで、車の中で「お出かけだー」と言った。
筠彦は「これはお出かけじゃないわよ、まだ家の中よ!」と言った。渡辺家の敷地はかなり広く、ゴルフコースと飛行場を一周するだけでも半日かかる。
愛希には理解できなかった。赤ちゃんの概念では、家とは建物の中のことで、建物を出れば外なのだ。
彼女は不思議そうにママを見た。純希は「私たちの家が大きいからよ」と説明した。
愛希は小さな腕を広げて「こんなに大きい?」と尋ねた。
純希は笑いをこらえて「うん、それよりもっと大きいの」と答えた。
愛希は小さな足をバタバタさせて「すごく大きいね!」と言った。
筠彦は彼女を抱きしめて「車の中では安全に気をつけないとね」と言った。
小さな赤ちゃんはおとなしく動かなくなった。車がジムの入り口に停まると、愛希は小走りで中に入った。しかし、入るとすぐに泣きながら出てきて、急いで走ったせいでつまずきそうになりながら「パパがお兄ちゃんを叩いてる、怖い!」と言った。
純希は娘を抱き上げ、数歩で中に入った。ちょうど健太が修一をマットに倒すところだった。
健太は引き締まった上半身を露わにし、汗が筋肉の溝を伝い落ちていく姿は、一見すると確かに少し恐ろしい攻撃性を感じさせた。