石井つぼみは森業グループに行ったが、山崎翔は彼女をもてなす暇がなかった。「石井さんは予約されていませんし、今日のスケジュールは空き時間がありません」
その言外の意味は、さっさと帰ってくれということだった。
つぼみは彼が自分に少しも面子を立ててくれないのを見て、言った。「私は森業のために一度災難を防いだのに、山崎様はこんなに冷たいのですか」
翔の視線はパソコンの画面から彼女の顔に移った。「どういう意味ですか?」
「あなたの従妹の松本智が森業をどん底に落とすところだったのに、私が彼女を止めなければ、渡辺健太がそんな軽い罰だけで済ませるわけがないでしょう。山崎様は一言のお礼もなく客を追い出すなんて、千景が来たがらないのも無理ないわ」
翔は尋ねた。「渡辺千景が帰国したのですか?」
つぼみは彼が松本智のことについて全く質問せず、代わりに渡辺千景のことを尋ねるのを聞いて、「彼女が帰ってきたこと知らなかったの?帰ってきたのにあなたを訪ねてこないなんて、気分悪くない?男ってそうよね、マゾなのよ」
翔は額をさすりながら言った。「そういう意味じゃありません。彼女が私を訪ねてこないほうがいいんです」
心の中で何となく不快感を覚えた。本当につぼみの言う通り、自分はマゾなのだろうか?
以前は自分に夢中だった人が突然性格を変えただけで、彼はただ慣れていないだけだ。彼が好きな人は最初から最後まで変わっていない。
つぼみは尋ねた。「健太がロシアの新しいホテルのオープンをとても大事にしているのは知っているわ。彼が突然すべての活動を延期してアメリカに出張に行くのは、なぜだか知ってる?」
翔は言った。「それを私に聞くのは買いかぶりすぎです。今や私たちと渡辺氏は以前のような協力関係ではありません」
渡辺家は彼らが修二に接触することを許さず、両家はとっくに仲違いしていた。契約など有っても無くてもいいものだ。健太は紳士ではなく、契約を破るためにいくらでも方法を持っている。騰夏実業はその道具の一つだ。
「彼が騰夏実業のためにアメリカに行くのでしょう?あなたは騰夏実業についてどれくらい知っているの?」
翔はもちろん全てを明かすつもりはなく、曖昧に答えた。「渡辺氏と騰夏実業の付き合いが密接なことは知っています。中島陽太はアメリカにいますが、彼がアメリカで何をするのか分かりません」