第350章 私はロシアに行きたい

田中純希は夫が専用機で迎えに来ると言うのを聞いて、少し心が動いた。しかし、愛する娘のことを考えると、やはり行かないことにした。「家で待っているわ。愛希は私にべったりだから」

子供ができると、何よりも子供のことが気になる。愛希がママを探して泣くのではないかと心配だった。

渡辺健太はもう一度尋ねた。「本当に来ないの?」

渡辺さんの声には失望が滲んでいて、純希は自分が何か悪いことをしたように感じた。「そんな顔しないで、健二。私が行かない方が仕事の効率も上がるでしょ」

「それは違うよ」健二は言った。「僕は32日と13時間も君に会っていないんだ」

純希は言った。「私が行っても、あなたは私と過ごす時間がないでしょう。だから行かないわ」

「あと半月しないと帰国できないんだ。本当に来ないの?」

純希は好奇心から尋ねた。「あなたは今まで出張に私を連れて行ったことないのに、どうして今回は連れて行きたいの?」

「長い間会っていないから、君が恋しいんだ」

「じゃあビデオ通話するわ」

これは健二の求めていた答えではなかった。彼は言った。「もう一日考えてみて」

「わかったわ、考えてから連絡するね」

「期待を裏切らないでくれよ」

汗、これでは彼女はもう考える必要もないのでは?

純希は子供をあやすように夫に仕事に集中するよう促し、急いで学校へ修一を迎えに行った。校門で特に佐藤明が来るのを待った。

加藤一晴と渡辺修一が側で遊んでいる間、純希は佐藤明に尋ねた。「あなたのお姉さんはどこの病院で治療を受けているの?状態はどう?」

明は以前、姉が他人とこの話題について話したがらないと言っていた。純希は佐藤姉さんに電話をかけても、この件について触れる勇気がなかった。

「渡辺奥さんのご心配ありがとうございます」明は言った。「姉と義兄は香港で検査を受けていますが、まだ専門医の予約が取れていません」

純希は心配そうに言った。「佐藤姉さんを延城に来させたらどう?延城の医療条件も悪くないし、主人が佐藤姉さんのために良い医師を手配できるわ」

明の目には少し慌てた様子が見えた。「姉が香港で治療できるかどうか見てからにします。どうしてもダメなら延城に来てもらいますが、余計な移動は避けたいので」