第354章 グローバル生中継のホットキス

渡辺健太は田中純希の緊張を和らげるためにキスをしようと思っていたが、司会者が先導して観客が歓声を上げ、メディアも熱狂する中、妻が恥ずかしがって協力してくれないのではと心配した。しかし予想外にも純希は小さな手で彼の腰に回し、全身全霊で応えてくれた。

健太は驚きながらも、大きな手で純希の後頭部を支え、公の場での愛情表現のチャンスを逃すはずもなく、その場でフレンチキスを交わした。

この光景にメディアは大忙しとなった。なんて目の保養になる光景だろう！

渡辺社長が長年独り身を通し、公衆の前で愛情表現をするのは百年に一度の珍事で、間違いなく大ニュースだ！

賑やかな場面の中で、ただ一人激怒していた人物がいた。

石井つぼみはハサミを手に持ち、歪んだ恨みに満ちた表情で受付の女性を怖がらせていた。女性が注意する。「石井さん、お手を切らないようにご注意ください」

つぼみは我に返った。会場はカメラだらけだ。こんなに感情を抑えられないなんて。

彼女は瞬時に明るい笑顔を浮かべ、ハサミを受付の女性のトレイに静かに置き、優しく言った。「ありがとうございます」

受付を担当していた背の高いロシア人美女は、つぼみの豹変ぶりに背筋が凍りついた。この石井さんは本当に怖い人だ！

つぼみは甘く接吻する二人の主役をもう見ることができなかった。見ていられなかったのだ。

石井峰は数人離れた場所から、娘がカメラの前で感情を失いかけたのを見て、非常に失望した。娘は彼の誇りだったのに、今や普通の家庭出身の娘にも及ばないとは。

つぼみは父親の失望した眼差しを見て、心の中の憎しみが狂ったように成長するツタのように、すべての隅々まで広がり、すべての光を遮った。

田中純希、あなたはただ一時的に幸運なだけよ。そんな幸運があなたの一生続くと思う？

司会者が皆とカウントダウンを始め、最後の一秒になってようやく健太は純希から離れた。

純希の頬は赤く染まり、息を整えるのに必死だった。健太が彼女の細い腰をしっかり支えていなければ、本当に立っていられなかっただろう。

メディアのフラッシュが絶え間なく光る中、健太は広い胸で純希の顔を隠した。妻のこんな魅惑的な姿は彼だけのものだ。