書類記入、写真撮影……須藤夏子は初めてお金持ちの特権を享受した。10分もしないうちに、木村弘恪は真新しい二冊の結婚証明書を彼女の前に差し出した。
夏子は突然手を伸ばす勇気が出なくなったが、西園寺真司は待ちきれずに開いて見た。
結婚証明書の写真で、夏子は満足げに微笑み、彼はさらに満足そうに笑っていた。
これからは、彼が手放さない限り、誰も彼の側から小さな宝物を奪うことはできない!
「怖がることはないよ、結婚証明書は人を食べたりしないから」夏子がまだぼんやりと座っているのを見て、真司は率先して赤い冊子を彼女の手に押し込んだ。
夏子はようやく下を向いて見た。写真は上手く撮れていて、自分と真司がとても釣り合っているように感じるほどだった。
このとき彼女は初めて実感した。自分は本当に結婚したのだ。それも自分が愛していない男性とのスピード婚だった。
彼女は心を引き裂くような痛みから抜け出したばかりで、急いで大きな賭けに出たのだ。
すべてが、本当に新しく始まるのだろう……
——
結婚に必要な手続きをすべて終えると、真司は夏子を連れて帰ろうとした。
休憩室を出ると、夏子は石川城太と深井杏奈が証明書を受け取る場所に座っているのを見た。機械が上下し、彼女と同じ二冊の結婚証明書が彼らの前に届けられた。
彼らも結婚しに来ていたのだ。こんな縁、本当に皮肉だと思った……
城太が証明書を取る時の冷たさと苛立ちを無視して、夏子は足早に出ようとした。しかし、中には不快な思いをさせたがる人もいる。
「夏子、ちょっと待って」杏奈が後ろから急いで追いかけてきた。
夏子の足取りは無意識のうちに速くなったが、真司が彼女の耳元で言った。「こういう人から永遠に逃げることはできないよ。彼女を恐れる必要はない」
夏子は自分は彼女を恐れているわけではなく、ただこういう人たちに向き合いたくないだけだと言いたかった。しかし考えてみれば、それは恐れることではないか?
一瞬の思考で、彼女は足を止めた。
「深井お嬢様、何かご用でしょうか?」
杏奈は恐る恐る真司を一瞥してから、夏子に言った。「少しだけ二人で話せないかしら?」
夏子も真司を見た。彼の強い存在感に感化されたのか、突然勇気が湧いてきて、自ら外に歩み出た。杏奈はすぐに後に続いた。