第57章 安心して私に恋をしていいよ

「深井杏奈が私に何を言ったか知りたくないの?」

須藤夏子が車に乗り込んだ後も、西園寺真司はさっきと同じように黙ったままだった。まるで杏奈が彼女に何を言ったのか全く興味がないかのようだった。でも彼が興味を示さなければ示さないほど、彼女はますます気になってしまう。

真司は夏子を見つめ、突然笑いながら無関心そうに言った。「要するに嫉妬して私を中傷しただけだろう。何も気にすることはない」

夏子はハッとした。確かにそうだった。

「彼女の言葉なんて、気にする必要はないよ。特に私に対する中傷なんて」

夏子は彼の笑顔に影響され、眉を上げて尋ねた。「あなたが女性を着替えるより早く変えるって本当?好きな女の子がいたことはある?」

彼女は故意に詮索しようとしたわけではなく、ただ話しているうちにそんな質問が出てきてしまっただけだった。

真司はすぐに彼女の後頭部を手で包み、二人の距離を急に縮めて、同じように眉を上げて尋ねた。「もし私に好きな女の子がいたら、気になる?」

夏子は考えもせずに首を振った。彼女はこの結婚から愛を得ようなどとは思ったことがなかった。

真司の瞳は、彼女のためらいのない反応に暗くなった。その後、彼は手を引っ込め、再び姿勢を正して座り、言った。「確かに多くの女性が私に近づいてくるけど、私は彼女たちに手を出したことはない。夏子、私たちの結婚は取引ではない。私は心も体も清潔だから、安心して私に恋心を抱いていいんだよ」

夏子は半信半疑で彼を見つめた。

真司はもうこの話題を続けず、顔を向けると笑みを消し、運転する宮平一郎に指示した。「昨日選んだ場所をいくつか回ってみよう」

夏子は真司の最後の言葉の意味がよく分からず、少し気まずそうに彼を見た後、また尋ねた。「どこに連れて行くの?」

真司は淡々と答えた。「家を見に行く」

夏子は最初うなずいたが、すぐにおかしいと思い、美しい瞳に驚きを浮かべた。「あなた東京にはたった3ヶ月しかいないんでしょ?なぜ家を買うの?」

真司は彼女の質問に答えず、逆に尋ねた。「夏子、あなたは今私の妻だ。選択してほしい。私と千景市に行きたい?それとも東京に残りたい?」