第71章 彼は彼女の旦那

仕事を終えた午後、須藤夏子は最近仲良くなった同僚数人をレストランに誘った。

しかしレストランに入る前に、彼女の携帯が鳴った。また西園寺真司からの電話だった。

森本先生は意味ありげな顔で夏子を見て、にこにこしながら尋ねた。「旦那さんからの電話?」

夏子は「旦那さん」という言葉を聞いて、思わず顔を赤らめた。周りの冷やかしには応えず、その場を離れて電話に出た。

「夕食は食べた?」真司は少し疲れた声で尋ねた。

「うん、今から食べるところ。あなたは?」夏子は彼を気遣いたかったが、どう切り出せばいいか分からず、結局同じ質問を返した。

「俺も今から食べるところだ。宮平に迎えに行かせるから、外で一緒に食事しよう」

「え?」夏子はそう言われて、少し困ったように声を上げた。

「どうした?問題でも?それとも俺と一緒に食事したくない?」真司は眉を上げて尋ね、傷ついたような口調だった。

夏子は急いで説明した。「そうじゃなくて、今日学校に来たら、同僚が指輪を見て結婚したことを知って、食事をおごるように言われたの」

真司の声にはすぐに笑みが滲んだ。そして尋ねた。「どこにいるんだ?」

「学校の外のレストランよ」

「学校の外か...あそこには高級レストランがないな。こうしよう、宮平にミシュランで個室を予約させておく。直接そこに行きなさい。初めて私の妻として同僚を招待するんだから、面目を潰すわけにはいかない」

夏子はレストランについてあまり詳しくなかったが、ミシュランが星付きレストランであることは知っていた。一つ星から三つ星まであるが、真司の地位を考えれば、間違いなく最も高級なところを予約するだろう。彼女はあまり派手にしたくなかったが、真司の面目も潰したくなかった。

「あなたも来るの?」夏子は少し不安そうに尋ねた。

おそらく彼女の声のためらいに気づいたのか、真司は一瞬間を置いてから言った。「交渉がまだ終わっていないし、遠いから行けないよ。食事が終わったら宮平に電話して、ホテルまで迎えに来てもらいなさい」

夏子は彼が来ないと聞いて心が躍った。しかし不思議なことに、少し寂しさも感じた。とにかく複雑な気持ちだった。

真司がさらに何点か注意した後、夏子は電話を切り、同僚たちに言った。「あの、主人がレストランを予約してくれたから、車で行きましょう」