第85章 須藤夏子、お前は本当にバカだ!

「夏子。」

「夏子!」

西園寺真司と石川城太がほぼ同時に声を上げた。

しかし須藤夏子は唇を噛みながら二人を一瞥しただけで、振り返ることなく走り去った。

真司と城太はすぐに足を踏み出して追いかけたが、城太がドアを出た瞬間、宮平一郎と木村弘恪に阻まれた!

「石川若様、協定書の内容を覚えておいてください。初日から違反するのはやめましょう」宮平は冷笑いながら言い、城太の表情を見て皮肉な顔をした。

城太はハッとして足を止め、拳を強く握りしめた。彼が立ち止まって迷っている間に、夏子と真司の姿はすでにフロアの奥で見えなくなっていた。

夏子はエレベーターを待たず、非常口の階段を一気に駆け下りた。真司は後ろから追いかけ続けた。11階に来たとき、夏子は走りすぎて足を滑らせ、よろめいて転んでしまった。真司はその光景を見て、恐怖で大声を上げた!

「危ない!」

パニックの声が出た瞬間、夏子はすでに六段の階段を転がり落ちていた。

真司は顔が紙のように青ざめ、手すりを掴んで中央から飛び降り、踊り場の平らな場所に着地した。夏子が階段から転がり落ちてきたとき、ちょうど彼のすねに当たった。

「怪我はないか?」真司の危険な体を張った行動のおかげで、夏子は壁に衝突せずに済んだ。しかし六段の階段は低くはなく、真司は夏子が重傷を負うのではないかと恐れ、急いで手を伸ばして彼女を抱き上げた。

まだ動揺が収まらず、夏子は真司の質問に答えられなかった。それでも彼女の緊急対応は悪くなく、転がり落ちるときに頭を守ることができていた。それでも額から血が出ており、肘と膝には擦り傷ができていた。

真司は彼女の古傷が癒えないうちに新しい傷が加わったのを見て、心が痛み、歯を食いしばって言った。「須藤夏子、お前は本当にバカだな!」

叱った後、彼はすぐに夏子を抱えて病院へ急いだ。

夏子は悲しみで感情を失ったかのように、真司の腕の中に身を寄せていた。彼の心臓の鼓動がはっきりと聞こえ、聞いているうちに思わず顔を上げて真司を見た。

実は真司が部屋に入ってすぐ後、彼女と陸橋天音は場所を見つけていた。そのとき木村は扉の外にいた。

木村は意図的に彼女に何かを知らせたいようで、彼女がドアの前に立つのを許していた。

だから部屋の中の会話は、すべて聞こえていた。

彼女と相続権、二者択一。