須藤夏子の記憶の中で、西園寺真司も彼女をこのように優しくキスしたことがあった。それも盗み取るようなキスだった。
でも、このキスは記憶の中のものとは少し違っていた。真司が彼女に対して何か言葉にできない依存を抱いているような感覚があった。
手のひらから少し汗が滲み出て、夏子は自分の早くなった心拍を聞いているような気がした。両手がしばらく薄い毛布の上をさまよった後、無意識に真司のバスローブに落ち着いた。そして彼女は救命具をつかんだかのように、バスローブの端をしっかりと握りしめ、抵抗しないようにと自分に言い聞かせた。
彼女はこの結婚生活で多くのものを得てきた。これは彼女が支払うべき対価だった。陸橋夫人に約束したように、真司を好きになろうと努力するつもりだった。
真司は彼女の受け入れを感じ取り、薄い唇を開いてさらに深くキスをした。彼女を完全に押し倒した後、彼女の体が軽く震えていることに気づいた。
彼は少し目を開け、彼女の赤い唇の隅々まで丁寧にキスしながら、低い声で尋ねた。「夏子、俺のこと怖いのか?」
夏子の少し赤らんだ顔は血のような色に染まり、彼の熱い触れ合いの中で、彼女も目を半開きにして、その優しい眼差しを見つめた。認めたくはなかったが、それでも小さく「うん」と頷いた。
真司は困惑した表情を見せ、彼女へのキスを止め、上から真剣に夏子を見つめながら、再び尋ねた。「なぜ俺を怖がる?」
なぜ?
夏子には言葉にできなかった。
ただ、この男性はいつも彼女に測り知れない、捉えどころのない感覚を与えていた。
そして彼女は、彼を信じ、頼りにすることに少しずつ慣れてきていた。
この感覚が、彼女を怖がらせていた。
「真司、私と離婚するの?」夏子は無意識のうちに再び真司の寝間着をしっかりと握りしめた。「もしいつか、一目で心を動かされるような女性に出会ったら、私と離婚する?」
真司は彼女の唇に軽くキスをして、断固として言った。「しない!」
「どうしてしないって分かるの?」彼が断固としているほど、彼女はますます不安になった。まるで以前の石川城太が彼女の前で誓いを立てていた姿を見ているようだった。彼と城太が違うことは分かっていても、女性の不安というのはそれほど道理が通らないものだった。