西園寺真司は彼女がこんな様子なのは恥ずかしがっているのだと分かった。
しかし恥ずかしがっているのはちょうどいい。自分の言葉がある程度効果があったということの証明だ。
エレベーターのドアが閉まった後、真司は黙って夏子の小さな手をしっかりと握り、上の階のボタンを押した。
夏子は不思議そうに彼を見て、尋ねた。「私たち帰るんじゃないの?」
真司はそこで自分が彼女に言い忘れていたことを思い出した。
「さっき林田おじさんに会ったんだ。彼が君に会いたがっている」
「林田おじさん?」夏子は真司の人間関係についてあまり詳しくなく、特に深く知ろうともしていなかったので、彼に林田おじさんという人がいることを知らなかった。
「林田おじさんは僕の両親や義父たちの旧知の仲なんだ。林田家と陸橋家も代々の付き合いがあって、林田おじさんの奥さんと僕の母、義母は親友同士なんだ。ただ彼らは長く海外に住んでいるから、あまり会う機会がなかった。林田おじさんはちょうど今国内にいて、僕のことを聞いて君に会いたがっているんだ」
夏子はようやく理解した。これもまた富の頂点に立つ人物の一人で、しかも西園寺家や陸橋家と深い付き合いがある。彼女の頭に突然ある考えが浮かび、すぐに尋ねた。「あなたが言う林田おじさんって、もしかして環宇会社の社長の林田辰紀さんじゃない?」
真司はうなずいた。
夏子の頭は一気に下がった。
やはりまた大物だ。
この林田辰紀についても、彼女は陸橋夫人の稲垣令枝について調べた時に見たことがあった。
当時のゴシップ記事によると、林田辰紀は稲垣令枝を追いかけていたが、最終的には当時まだ陸橋次男坊だった陸橋陽仁に敗れたという。その後、もっと前から知り合いだったRING集団の会長の娘と結婚し、卓越した手腕と高い人気で環宇会社をエンターテイメント業界の頂点へと押し上げた。
「どうしたの?人に会うのが怖い?」真司は彼女の垂れ下がった小さな頭を持ち上げ、彼女にこれほどの重圧をかけるべきかどうか迷っていた。夏子は幼い頃から衣食に困ることはなかったが、大物に接する機会はなかった。そして彼と関係のある人々は皆、上流社会のトップクラスの人物ばかり。短期間で夏子にそれを受け入れさせるのは、確かに無理強いかもしれない。