須藤夏子は普段見かけるゴシップニュースを思い浮かべ、頭が痛くなった。
芸能界について、彼女はただ一つの感想しかなかった。それは「乱れている!」ということだ。
プライベートが公開されるだけでなく、いつも理由もなく様々な噂に巻き込まれる。だから彼女は本当に足を踏み入れたくなかった。
しかし西園寺真司の言葉はもっともだった。彼女はすでに一歩を踏み出している。もし歌い続けたいなら、芸能界に入るのは時間の問題だ。
「真司、私が芸能界に入ることは気にならない?」夏子は真司を一瞥して尋ねた。
真司は夏子の目を見つめ、彼女の考えを推し量っているようだった。しばらくして、ようやくゆっくりと口を開いた。「夏子、君はいつも先のことばかり考えすぎる。前にも言ったじゃないか。僕には君が思うままに行動できるだけの力がある」
夏子はしばらく考えてから、少し不服そうに言った。「私がどうして先のことばかり考えすぎるって…」
真司は彼女と議論せず、ただ言った。「君が歌うのが好きなのは知っている。好きなことをすればいい。他のことは何も気にしなくていい。僕は権力と富の頂点に立つ人間だ。どんな業界も僕の目には単なる小さな輪に過ぎない。わかるか?」
夏子は最初は真司の言葉を理解できなかったが、少しして理解した。
そうだ、どんな業界でも、真司はその支配者になれる。彼女が心配していたことは、実際には全く起こりえないのだ。
彼女が嫌っていたのは、芸能界の闇の部分だけだ。今や彼女は西園寺真司の妻なのだ。誰が彼女に手出しできるだろうか?
そう考えると、夏子は突然大胆になった!
すぐに階段を駆け上がり、櫻井部長に電話をかけ直した。
午後には、櫻井部長が楽譜を届けさせた。
『傾城の美人』の挿入歌は全部で5曲あり、夏子は一通り見た後、すぐに自分の好きな2曲を決めた。夕食前には、櫻井部長が直接契約書を持って訪れた。
「こちらの3部は映画音楽の契約書です。須藤先生は正式にデビューしたアーティストではなく、マネージャーもいらっしゃらないので、私が一時的に須藤お嬢さんのマネージャーとして署名しました。須藤先生にご迷惑でなければ幸いです。もちろん、報酬は一切いただきません」