第183章 拾った方がいい【追加更新】

階下の人々は書斎で何が起きたのか知らなかった。

ただ西園寺真司が下りてきた時は春風満面だったのに対し、須藤明良は無理に笑っているように見えた。

深井杏奈は石川城太と石川お婆様と一緒に帰ることになっていたので、明良の様子がおかしいことに気づいても、今は尋ねることができず、ただ心配そうに目配せするだけだった。

明良は安心させるように軽く首を振ったが、その視線はまるで操られているかのように、無意識のうちに須藤夏子の姿を追っていた。

先ほど真司があの三つの条件を言い出した時、夏子はただ傍らに立って冷淡に聞いているだけで、眉一つ動かさなかった。彼はその時、あれは真司の意思なのか、それとも夏子の意思なのかと疑問に思った。

長年父娘として過ごし、血のつながりもある中で、明良は初めて夏子によって心の痛みを感じた。それはほんの僅かなものだったが、心に刺さった細い棘のように、どうしても抜けなかった。

夏子は明良の視線に気づいていたが、知らないふりをして、真司と一緒に石川お婆様を玄関まで見送った。

「あなたと城太は別の車で行きなさい」石川お婆様は玄関に着くと、城太に車で送らせることを断り、それから真司に向かって言った。「あなたは私と一緒に歩きましょう。話したいことがあるの」

真司はこの老婦人をあまり好きではなかったが、彼女の特別な立場もあり、嫌いというわけでもなかった。そこで城太と杏奈が車で去った後、彼はゆっくりと石川お婆様の後ろを歩き、自分の若い妻の手を引くだけで、老人を支える素振りは全く見せなかった。

石川お婆様は須藤家のある小区域を出るまで待ってから、夏子を一瞥し、感慨深げに言った。「まさか、こんな回り道をして、あなたが私の孫嫁になるとは思わなかったわ」

先ほど須藤家では、お婆様は彼女に一言も話しかけず、まるで彼女に興味がないかのようだった。夏子は、老婦人が彼女が誰なのかをすでに知っていたことに驚いた。須藤家では一言も触れなかったのは、おそらく彼女と須藤家、石川家の両方の面子を立てようとしたのだろう……

「たぶん…私と石川家は本当に縁があるのかもしれませんね」夏子自身も不思議に思っていた。一人の石川若様に捨てられ、また別の「石川若様」を拾った。しかも彼女は運が良く、拾った方がより良い人物だった。