第207章 このぼんぼうがそんな品物に目をかけるか？

「本当にそれだけ？」

須藤夏子は昨日出会った深井詩乃のことを思い出すと、思わず鳥肌が立った。

もし深井杏奈の言っていることが本当なら、確かに詩乃のことを警戒する必要があるし、今となっては杏奈が自分にこんな話をした意図もだいたい察しがついた。

詩乃は西園寺真司のことが好きで、自分は真司の妻だ。杏奈は自分と詩乃を争わせようとしているのだろう。

やはり山河は変われど本性は変わらないものだ。

「俺が深井詩乃なんかに興味を持つと思うのか？」真司は夏子が信じていないのを見て、腹を立て、身を乗り出して夏子の唇を噛んだ。今回はキスではなく、本当に噛んだのだ。

夏子は小さく悲鳴を上げ、真司を押しのけると歯を剥き出しにして彼を睨みつけた。そして唇をさすりながら、また尋ねた。「詩乃さんと杏奈さんの仲はあまり良くないの？」

真司はまさか彼女がこんなことを気にするとは思っていなかったようで、少し考え込んだ後、詩乃のことについて夏子にきちんと話すことにした。詩乃は彼にとって問題ではないが、詩乃が陰で妻に嫌がらせをするのが心配だった。

夏子は真司が真剣な表情になるのを見て、ソファに向かい合って座り、二人は数十分も話し込んだ。

話し終えた後、夏子はようやく詩乃を甘く見てはいけないことを知った！

詩乃は実は深井家の娘ではなかった。

深井家の奥様が亡くなった後、深井お婆様が主導して、自分の側近の娘である田村子晴を長男の深井泰歩に嫁がせた。子晴は離婚歴のある女性で、連れ子の娘・詩乃もいたが、子晴は非常に美しかったため、泰歩はこの縁談を承諾した。

詩乃は母親が連れてきた娘として、内情を知る人からは良い境遇とは思われていなかった。しかし意外なことに、深井お婆様は詩乃を特別に可愛がり、姓を深井に変えさせただけでなく、自分の実の孫たちよりも良くしていた。当時、深井家はまだ杏奈を見つけていなかったので、深井家には詩乃ただ一人の女の子だった。

詩乃は深井お婆様の寵愛を独り占めし、深井家のお嬢様という身分で十数年を過ごした。

西園寺真司の出現によって、すべてが変わるまでは！

三年前、深井家の当主が亡くなり、真司は西園寺家と陸橋家を代表して弔問に訪れた。その後の深井家での夕食会で、詩乃は初めて真司に会い、それ以来、真司は詩乃に付きまとわれるようになった。