環宇の最終選抜は朝の10時から始まることになっていた。
須藤夏子と森本千羽が学校に着いたときはすでに10時半だった。2000人を収容できる講堂はすでに満員で、今回の選抜は学校で最も大きな講堂で行われ、入場制限もなかったため、夏子たちは簡単に入ることができたが、座る場所は見つからなかった。
「あれ?まだ始まってないみたい?」千羽は前列の席がすべて空いているのを見て、隣にいた学生に好奇心から尋ねた。
その女子学生は特別クラスを教えている千羽と夏子のことを知らず、イライラした口調で答えた。「知るわけないでしょ」
千羽の顔に怒りの色が走ったが、最終的には我慢した。夏子は彼女の手を引いて別の場所に移動し、諭した。「あんな人に腹を立てる必要はないわ。見ればわかるでしょ、お金持ちのお嬢様で、コネで学校に来たんだわ」
千羽はこういうことは一度や二度ではなかったので、当然その道理を知っていた。彼女のようなバックグラウンドのない教師は、しばしば一部の学生からの嫌がらせを受けていた。そこで彼女はにこにこと言った。「安心して、どこにでもこういう人はいるわ。怒っていたらキリがないわ」
夏子はうなずいて、また別の学生に尋ねた。「10時から最終選抜が始まるって聞いたけど、どうして前の審査員席に誰もいないの?何かあったの?」
その学生はたまたま夏子が担当していた生徒で、彼女の耳元で小声で言った。「本当は始まっていたんですが、さっき環宇会社から来た二人の審査員が、矢野柚棋という選手のことで突然言い争いになって、それから選抜が今まで中断しているんです」
「言い争い?それも環宇の会社の人が?」夏子は舌打ちした。ここにはこれだけ多くのメディア記者がいるのに、どうして突然言い争いになるのだろう?
傍らの千羽は何かを知っているようで、こっそり夏子の腕を引いて言った。「大丈夫よ、本当の喧嘩じゃないわ」
夏子はしばらくしてから反応し、信じられないという表情で尋ねた。「つまり...彼らは話題作りをしているってこと?」
千羽は記者たちの方向に顎をしゃくった。今回の環宇の選抜は規模としては大きくないが、来ている記者は少なくなく、しかも有名なメディアも多かった。選抜の過程は生中継されないが、その後のニュースは間違いなく多く出るだろう。