第293章 取締役会に出席する

深井家が出面したおかげで、翌日には何の悪い噂も流れず、メディアはすべての注目を結婚式がいかに豪華だったかという点に集中させていた。

須藤夏子がそのニュースを見たとき、もう何の感情も湧かなかった。名門の恥を隠す速さはいつも迅速なもので、昨日の結婚式でそれを目の当たりにしたばかりだった。

ただ、彼女の頭の中では、深井杏奈が階段から転げ落ちる場面が何度も繰り返し再生されていた。そして考えれば考えるほど、自分が見間違えたわけではないと確信していた!

「真司、杏奈の今の状態を知ってる?」

「流産して、まだ入院してるよ。どうしたの?」西園寺真司は服を整えながら、夏子を見て尋ねた。

夏子は唇を噛んで言った。「彼女に会いに行きたいの」

真司はすぐに眉をひそめて聞いた。「同情してるの?」

夏子は首を振った。「ただ純粋に彼女がどうなったか知りたいだけ。いい?」

真司はカフスボタンを留め、腕時計を手首に巻きながら言った。「午後、一緒に行こう」

「出かけるの?」夏子はやっと気づいて、大きな瞳を見開いて真司を見た。

真司は口元を緩めて微笑み、夏子をお姫様抱っこでソファに座らせると言った。「忘れたの?今日は石川テックの取締役会長選挙の日だよ」

夏子はハッとした。確かに忘れていた。彼女はこういうことにまったく関心がなかったからだ。

「じゃあ今から取締役会に出席するの?」

「ああ、今日が終われば石川城太が正式に会長の座に就く。俺と彼の戦いも、これから本格的に始まるんだ!」

夏子は真司の腕をしっかりと掴み、緊張した様子で尋ねた。「私も行ってもいい?」

「何しに行くんだ?」

「行きたいの。車の中で待ってるから」夏子は懇願するように彼を見つめて言った。一人で家にいて余計なことを考えたくなかった。

真司は彼女の潤んだ瞳を見て、断る言葉がどうしても口から出てこなかった。結局同意して言った。「木村に駐車場で君に付き添わせるから、勝手に動き回らないでね」

夏子はすぐに頷き、着替えに行った。

石川テックの取締役会は午前10時に設定されていた。9時半には石川テックビルのVIP駐車場はすでに満車状態だった。

宮平一郎がようやく駐車スペースを見つけたとき、斜め前からマイバッハが一台そのスペースに滑り込んできた。宮平は口角を引きつらせ、バックミラー越しに真司を見た。