病室を出た後、石川城太の表情はようやく少し和らいだが、その中に隠しきれない一筋の快感が混じっていた。
アシスタントは彼の後ろに静かについて行き、息をするのも恐る恐るだった。
城太は横目でアシスタントを一瞥し、突然足を止めて、低い声で尋ねた。「お前も俺が怖いと思っているのか?」
アシスタントは明らかに一瞬戸惑い、急いで答えた。「少爺様、私はあなたのお気持ちを理解しています。あなたがこうされるのは全て須藤お嬢さんのためだと分かっています。」
城太は少し笑った。その笑みには薄い皮肉が混じっていて、他人を皮肉っているのか、自分自身を皮肉っているのかは分からなかった。
「夏子のため…そうだな、俺は皆に『夏子を取り戻すため』と言える。だが実際は…俺はただの自己中心的で残酷な人間だ。」
アシスタントは城太のこの言葉を聞いて、再び黙り込み、できるだけ視線を下げて、城太の今の表情を見ないようにした。
城太のこの皮肉めいた態度は、ほんの一瞬だけ続いた。その一瞬が過ぎると、彼は全ての感情を顔から消し去り、尋ねた。「明日の取締役会の準備は整ったか?」
「少爺様ご安心ください。全て準備は整っています。時田社長の方には既に連絡を入れました。彼らは確実にあなたの味方につきます。ただ—」
「ただ何だ?」城太の目が急に冷たくなった。
「お聞きしたところによると、お婆様は明日の取締役会に出席されないそうです。お婆様は投票権を全て西園寺様に委任されました。西園寺様自身も石川商事の株主ですので、彼の手には現在二票の拒否権があります。」
城太の眉間の厳しさが一瞬止まった。彼と西園寺の間には協定があるとはいえ、前回のキャンプで彼が須藤夏子の寝室に侵入したところを西園寺に見つかってしまったため、西園寺が約束を反故にするのではないかと心配していた。
「いかなる不測の事態も許さない、分かったな!」
アシスタントは急いで頷いて了承し、ちょうど立ち去ろうとしたとき、突然何かを思い出したように尋ねた。「少爺様、須藤お嬢さんと深井様のDNAサンプルは既に入手しました。検査に出しますか?」
深井杏奈と須藤明良の親子関係は既に証明されているので、須藤夏子と深井泰歩の検査をするかしないかに関わらず、結果は同じだ。
城太は3秒ほど考えてから、それでも言った。「検査しろ。」