翌日の早朝、陸橋夫人は使用人に贈り物の準備をさせた。
須藤夏子も早起きして、西園寺真司がまだ目を覚ます前に、こっそりと森本千羽に電話をかけた。
「あの品、持ってきてくれた?」
千羽はあくびをしながら答えた。「持ってきたよ。もう家の前にいるんだけど、家の人に気づかれるといけないから、ずっと外で待ってるんだ」
夏子は急いで上着を羽織って外に滑り出た。案の定、千羽が目の下にクマを作りながら外に立っていて、手には書類の入った封筒を抱えていた。
「コピーは取れた?」
「全部できてるよ、見てみて」
夏子は封筒から中身を取り出して確認した。確かにあの日和豪病院に置き忘れた鑑定報告書だった。彼女の顔に突然冷たい笑みが浮かび、千羽に言った。「このことは絶対に秘密にしておいてね」
「安心して、中身が何かも知らないんだから、話そうにも何も話せないよ。用事がなければ帰って寝るね」千羽はそう言いながら、またあくびをした。
夏子は彼女にお礼を言い、急いで自分の寝室に戻ったが、あいにく戻ったときには真司はすでに目を覚ましていた。
「朝早くからどこに行ってたんだ?」真司はベッドに横たわったまま何気なく尋ねた。
夏子はすでに封筒の中身を服の中に隠していたので、落ち着いて答えた。「千羽がちょうど通りかかったから、少し話してただけよ」
真司は眉を上げたが何も言わなかった。夏子はそのままクローゼットに行って着替え、ついでに鑑定報告書をバッグに入れた。
真司は細めた目で窓から差し込む朝日を楽しみながら、余光でクローゼットのドアを見ていた。そのとき、愛犬のまるちゃんが嬉しそうに寝室に駆け込んできた。ベッドに飛び乗ろうとしたが、ベッドには真司しかいないのを見ると、すぐに機転を利かせてクローゼットの方へ向きを変えた。
するとクローゼットから夏子の笑い声が聞こえてきた。
西園寺若様は非常に不機嫌だった。
正体がばれてから今まで、彼の小さな妻が心から笑うのは犬の前だけだった……
朝食を済ませた後、陸橋夫人と稲垣令枝は夏子を連れて深井家へ出発した。