物事には、逃げようとしても逃げられないことがある。
「須藤夏子、合計で十四分遅れた。言ってみろ、今日が初めてだから、どんな罰を与えようか?」
「くそっ!十三分四十二秒じゃなかったの!」
「さっきの十五秒も含めてだ」
「その十五秒はあなたがくれたんじゃない!」
「ああ、丸い数字にするのを許しただけだ」
夏子は「……」
この男は本当に最低だ!
「どうせ遅れたんだから、好きにすればいいじゃない!」夏子は怒り、犬用のビスケットとドッグフードを片付けながら、怒りに満ちた表情で西園寺真司をにらみつけた。
真司は彼女のしなやかな体つきと、怒っていても隠せない美しい顔立ちを見て、喉の渇きを感じながら、わざと声を低くして笑った。「本当に、僕の好きにしていいのかい?」
夏子は彼の危険な眼差しに気づき、思わず自分の体を抱きしめながら真剣に抗議した。「西園寺真司、昨日は一晩中私を疲れさせたでしょ、今日はダメ!」
真司は白く長い指を顎に這わせ、声はますます低く誘惑的になった。「ふうん?昨夜もそう言ってたような気がするけど?」
夏子は血の気が頭に上るのを感じ、この会話を諦めることにした。自分の犬を抱いて外のブランコに座りに行った。
冷静に。
冷静にならなきゃ!
真司は二分後、彼もブランコのところに来たが、手には薄い毛布を持っていた。
「かけなさい」真司は後ろから回り込み、毛布を彼女の背中にかけた。
夏子は最初、わざと彼に逆らおうと思ったが、空にある丸くなりつつある月を見上げると、心に静けさと温かさが広がってきた。二匹の小さな犬を脇に置き、彼女は静かに毛布を自分の体に巻きつけた。
その後、ブランコがわずかに沈み、真司も彼女の隣に座り、まるちゃんを抱いて自分の膝の上に置いた。
まるちゃんは嬉しそうに尻尾を振り、足をばたつかせ、すぐに真司の黒いスーツのズボンに小さな足跡をたくさんつけた。
しかし真司は夏子の予想に反して気にする様子もなく、片手で夏子の腰を抱き、もう片方の手でだんだん大人しくなってきたまるちゃんを撫でていた。
「夏子、知ってるか?」彼は突然口を開いたが、声はある未知の点で止まった。
夏子も口を挟まず、静かに彼の言葉を聞いていた。
「子供の頃、うちでも犬を飼っていたんだ」
月明かりに照らされた夏子の小さな顔が、真司の方に向けられた。