タダ飯を食べる人は見たことがあるけど、タダで服を着る人は見たことがない!
それも世界的に有名なS&Yモールでタダ着するなんて!
これはもう堂々と強奪じゃないか!
「あの……社長、ご安心ください。この件は誰にも漏らしません!」
西園寺真司はまだ混乱から立ち直れていないようで、しばらく空っぽになった店の入り口から視線を戻せずにいた。やがて諦めたような、そして……呆れたような表情で言った。「うん、するべきことをしなさい」
店長は一瞬固まった。
するべきことをするとはどういう意味だ?
本当に……警察を呼ぶということか?
でもあれは社長夫人だぞ!
社長はただ公私をわきまえているだけではなく……血も涙もないのか!
「社長、それはまずいのではないでしょうか。もし噂が広まったら夫人の評判に関わりますし、あなたの評判も……」
真司が冷たい目で店長を一瞥すると、店長はすぐに飛び上がるほど驚いて言った。「すぐに警察に通報します!」
真司の視線はさらに冷たくなった。「誰が警察を呼べと言った?」
店長は汗を拭きながら震えた。「い、警察は呼びません。で、では、どうすれば……?」
「どうすると思う?」
「私が思うに——」社長、人はもう逃げてしまったんだ、警察を呼む以外に何が言えるというんだ!
いや違う——
さっき社長が「するべきことをしなさい」と言ったとき、その前の「うん」という言葉は何を意味していたのだろう?
店長はすぐに気づいたようだった。非常に賢く、社長が「うん」と言った時の口調を思い出し、瞬時に理解した。風のように素早くカウンターに走り、VIPカードを取り出して恭しく真司に差し出した。「これは社長夫人用の特別会員カードです。先ほどの服や靴は、当店から若奥様へのプレゼントとしてお贈りしたものです!」
真司の目にようやく笑みが浮かび、表情もゆっくりと和らいできた。「贈り物は結構だ。貴ブランドに不必要な損失を被らせるわけにはいかない。請求書を作成して、四半期ごとに木村補佐に清算してもらいなさい」
「かしこまりました!」店長はこれを聞いて顔をほころばせ、自分の機転の良さに内心ほっとした。
幸い彼の反応が早かった!
やはり大物の考えは簡単には読めないものだ!
「もし少しでも悪い噂を耳にしたら、その時は——」真司は指で会員カードをなぞった。