須藤夏子がバッグを背負って嬉しそうに戻ってきたとき、西園寺真司は優雅にメニューを眺めていた。
彼は高価なスーツを脱ぎ、普通のスポーツウェアに着替えていたが、彼がそこに座っているだけで、生まれながらの気品を漂わせ、周囲の人々を霞ませていた。
夏子は陽光を背に、ガラス越しに真司をしばらく見つめていた。彼女の心臓は制御不能に早鐘を打ち、突然彼の胸に飛び込んで抱きしめられたいという衝動に駆られた。しかし、彼女が一歩踏み出した瞬間、隣のテーブルの女性が真司に近づいていくのを目にした。
「一人ですか?」
真司は相変わらず淡々とメニューを眺め、顔を上げることさえしなかった。
しかしその女性は真司の無視を無視し、許可も得ずに真司の向かいに座り、続けて尋ねた。「相席してもいいですか?」
真司は引き続き無視したが、口元には微笑みが浮かんでいた。
夏子はその光景を見て、怒りがこみ上げてきた!
他の女が彼に声をかけたのに、彼は笑ったのだ!
しかも、とても素敵な笑顔で!
ひどすぎる!
向かいの女性も真司の笑顔に気づき、それが彼女への反応だと思い込み、すぐさらに熱心になった。「あとで友達が二人来るんですけど、食事の後、映画でも一緒にどうですか?」
真司の口元の笑みは大きくなり、女性の質問には答えなかったものの、視線をメニューから離し、さりげなく向かいの女性を一瞥してから、壁の鏡に目を向けた。
鏡の中で、夏子は拳を握りしめ、怒りを抑えた小さな虎のように、彼の向かいの女性を睨みつけていた。その姿は可愛くもあり、滑稽でもあった。
「何を見ているんだ?」真司は突然鏡に向かって尋ねた。
女性は喜んで答えた。「最近『恋愛契約』っていう映画がいいらしいですよ。それを見ましょう」
夏子はここまで聞いて、もう我慢できなかった!
叔父は我慢できても、叔母は我慢できない!
あの女は彼女の目の前で夫を誘惑しているのだ!
これ以上我慢する必要なんてない!
「だん——」
「見終わった?」
夏子が鋭い爪を立てようとした瞬間、真司が突然彼女の方を振り向いた。口元の笑みが頬まで広がり、もはや冷たい表情ではなくなっていた。
向かいに座っていた女性はその光景を見て、呆然としていた。
夏子も一瞬驚き、彼のその笑顔に怒りが一気に消え去り、彼を見つめたまま言葉が出なかった。