離婚しよう

天雲市。

五月、雨の夜。

橋本美智は武田直樹に抱きしめられ、彼の熱い肌と絶え間ない口づけに少し夢中になっていた。

熱波が押し寄せ、波紋を広げていく。

全てが静まると、武田直樹は彼女を解放し、バスルームへシャワーを浴びに行った。

彼が行ってほんの少しすると、ベッドサイドに置かれていた携帯電話が鳴り始め、美智は代わりに出た。

電話からは甘い女性の声が聞こえてきた。「直樹、私たちのこと、橋本美智さんに話した?」

橋本美智はその場に凍りつき、一瞬頭が真っ白になった。

彼女はこの声の主が誰か知っていた。

武田直樹の憧れの女性、青木佳織だ。

「直樹、外で雷が鳴ってるの、ちょっと怖いわ。来て一緒にいてくれない?前はいつもそうしてくれたじゃない。今日はどうして来てくれないの?直樹、直樹?」

おそらく電話に出たのが直樹ではないと気づいたのだろう、向こうの女性は慌てて電話を切った。

橋本美智は硬直したまま直樹の携帯をもとの場所に戻し、ベッドに横になった。

しばらくして、武田直樹はシャワーを終えて出てきた。

しかし彼はベッドに戻って眠る様子はなく、隣のソファに座り、冷たく彼女を呼んだ。「美智。」

「うん。」

「離婚しよう。」

薄暗い中、美智の涙が流れ落ちたが、声は心の準備ができていたかのような静けさを帯びていた。「どうして?」

「佳織が妊娠した。子供は俺の子だ。」

たった十文字の言葉が、橋本美智の心理的防御を完全に崩壊させた。

そういうことか、青木佳織が言っていた「私たちのこと」とはこれだったのだ!

彼女の心は誰かにナイフで激しく刺されたようで、痛みで震えた。「いつからのこと?」

「二月だった。」

橋本美智は必死に泣き声を抑えた。「彼女はあなたのお兄さんの婚約者じゃなかったの?お兄さんが亡くなってすぐ彼女と寝たの?」

兄の話が出ると、武田直樹のハンサムで冷たい顔に感情が浮かんだ。「それは俺の問題だ。兄のことは二度と口にするな。」

「なぜお兄さんの話をしちゃいけないの?あなたはお兄さんの女性と寝たのよ。彼に申し訳ないと思わないの?それとも、お兄さんが生きていた時から、あなたたち二人は彼の背後でやっていたの?あなたはやることはできても、私が言及することは許せないの?」

武田直樹の目は非常に鋭くなった。「黙れ!お前が思っているようなことじゃない!」

「じゃあどういうこと?お兄さんは一月に亡くなって、あなたは二月に彼の婚約者と寝て、三月には何事もなかったように私と結婚して、今五月になったばかりなのに離婚したいって言うの。自分が恥知らずだと思わない?」

「言っただろう、お前が思っているようなことじゃないと。俺が恥知らずだと?お前だって大したことないだろう?お前が嫁いできた目的が何か、俺が知らないとでも思ってるのか!」

橋本美智は悲しみと心の痛みを感じるだけだった。「私の目的って何?」

「お前は武田家の財産を狙って、橋本家の穴を埋めようとしているんだろう!」

「あなたは私をそう思ってるの?」

武田直樹の口調は冷たく皮肉に満ちていた。「違うとでも?俺に恋したとでも言うのか?」

橋本美智は彼の口調に刺激され、まるで気にしていないふりをした。「まさか、あなたの言う通りよ。私があなたと結婚したのは、武田家のお金が目当てだった。あなた自身には愛するところなんて何もないわ。体はまあまあだから、私のベッドを温めてくれる道具としては使えるけどね。」