武田直樹の到来で、会社全体が沸き立っていた。
女性社員たちは武田直樹の並外れた容姿に感嘆し、彼の比類なき家柄と相まって、彼はほぼ一瞬で皆の理想の恋人となった。
例外は二人だけだった。一人は美智、もう一人は受付の梨々子さんだ。
美智は少し不思議に思った。「梨々子さん、どうして武田社長を見ても興奮しないの?みんなあんなに興奮してるのに」
梨々子さんは唇を噛み、小声で言った。「私も最初は興奮してたんですけど、美智さん、彼はあなたを受付だと思って、あんな失礼なことを言ったんです。顔だけで受付をしているなんて。彼はとても意地悪で、見た目で人を判断するんです。美智さんはあんなに優秀なのに。私は営業じゃなくても知ってますよ、有賀社長が解決できない難題があるといつも美智さんに頼っていることを」
美智は笑った。「大丈夫よ、むしろ彼が見た目で人を判断しないほうが怖いわ」
「美智さん、武田社長とは知り合いなんですか?」
「ええ、知り合いよ」
「じゃあ、彼を怒らせたんですか?あなたに対する態度がすごく悪かったですけど」
美智の心に苦い感情が湧き上がった。「そうね、態度が最悪だったわ。でも実際は彼が私を怒らせたのに、あんなに傲慢で横柄なんだから」
スターライト技研の応接室では。
武田直樹は急いで有賀尚明にビデオを修復させるのではなく、まず社員名簿を要求した。
彼はざっと目を通し、顔を上げて有賀に尋ねた。「社員名簿は全員分ですか?」
「はい、武田社長、全員分です」
「受付は二人いるのに、ここには一人しか書かれていませんね」
「武田社長、それはですね、もう一人の美智さんは最近来たばかりで、まだ試用期間中なので、社員リストには載っていないんです」
美智は三ヶ月以上前に辞職していた。スターライト技研の社員名簿は先月更新されたばかりで、当然彼女の名前はなかった。
彼女が辞職していて良かった。さもなければ、彼女の名前は上級エンジニアの欄に載っているはずで、すぐにばれてしまうところだった。
有賀が美智の真の立場を明かすほど愚かなはずがない。そうすれば、この大金を稼げなくなるだけでなく、美智を完全に敵に回し、彼女をライバル企業に追いやることになる。
そんな損な商売をするわけがない!
とりあえず彼女のために秘密にしておくしかなかった。