武田香織は怒りを隠せなかった。「私はこの前サーフィンに行って日焼けしただけよ。元に戻れば私だって白いんだから!ちょっと、二兄さん、何してるの?二嫂さんのバッグを返すだけでいいでしょ、なんで薬用石鹸を入れてるの?その石鹸は全部私のものよ、二嫂さんが特別に私のために用意してくれたんだから!」
「これは俺のものだ」
武田直樹は眉をひそめた。「まだ帰らないのか?」
香織は目を丸くした。「どうして私のものを奪うの?」
「そうだ、奪った。それがどうした?」
香織は彼の図々しい態度を見て、言葉を失った。
やっぱり彼は子供の頃と同じで、兄としての自覚が全くない。気に入ったものは何でも奪い取り、彼女のことなど気にも留めない。
でも取り返すこともできない。結局、直樹に勝てるわけがないのだから。
他人の死活を気にしないその性格を、どうして青木佳織には向けないのだろう?!
香織は心の中で毒づきながら、自分の手に握りしめた二つの薬用石鹸を大事そうに持ち、振り返りながら去っていった。
まあいいか、また後で二嫂さんにたくさんもらえばいい。それを写真に撮って二兄さんに見せびらかしてやろう。それで彼を悔しがらせてやる!
直樹がどれほど優秀でも、香織の心の中を読むことはできない。
彼は今、機嫌がよく、薬用石鹸を手に投げ上げてから、階段を上がって浴室に並べた。
一つの石鹸の包装を開けると、その香りが広がり、浴室全体が清々しい良い香りに包まれた。
彼女は薬用石鹸も作れるのか。なぜ彼のために作ってくれないのだろう?
家のボディソープや石鹸は全て彼が買ったもので、彼女がこういうものを用意してくれたことはない。
やはり彼女は彼のお金だけが目当てで、彼に対して全く心を込めていない。香織とは知り合ってまだ数日なのに、もう手作りの薬用石鹸をプレゼントしている。彼の立場は香織よりも下なのだ。
石鹸を置いた後、彼は寝室に行って眠りについた。
しかし、しばらくすると悪夢にうなされ、目が覚めた。
彼は携帯を手に取って時間を確認した。午前10時。
たった1時間ちょっとしか眠っていなかった。
動悸がまだ続いており、直樹は眉をひそめた。
普段はほとんど夢を見ないのに、今日は美智の夢を見た。