第154章 無能者

武田直樹は雨の中に消えていく警察車両を見つめながら、表情が次第に冷たくなっていった。

彼女は今、彼をこれほど嫌っているのか?

彼はわざわざ秘書に警察での取り調べがいつ終わるか確認させ、彼女を迎えに来たというのに、彼女は刑事と一緒に帰ってしまったのか?

彼は彼女が誘拐されたことで同情すべきではなかった!

「直樹、橋本さんは刑事に家まで送ってもらえるから安心してよ!彼女はすごく人気があるみたいね。初対面の刑事でさえ家まで送ろうとするなんて。やっぱり美人は得だわ。私みたいな普通の顔だと、あなたが面倒を見てくれるだけよ」

直樹は彼女の言葉を聞いて、なぜか心の中でさらにイライラが募った。

美智はそこまで美しくなったのか?

刑事までもが特別に彼女の面倒を見るとは!

「直樹、家に帰りましょう。もう使用人に夕食の準備をさせてあるわ。あなたの好きな黒胡椒牛肉炒めもあるのよ!」

直樹はようやく彼女に目を向け、淡々と尋ねた。「体は大丈夫なのか?前は病院で取り調べを受けるって言ってなかったか?どうして出てきたんだ?」

「警察の方々に手間をかけるのは申し訳なくて、だから来たの。私の証言はとても重要で、誘拐犯の量刑に影響するのよ。あんなに悪い人たちだから、少しでも力になって、相応の罰を受けさせたいと思って」

直樹はうなずき、二人のボディガードに言った。「彼女たちを安全に家まで送れ。今度また人を見失ったら、お前たち二人はクビだ」

二人のボディガードは急いで応じた。「はい、武田社長。今度は必ず青木さんをお守りします!」

佳織は焦った。「どういう意味?直樹、あなたは彼らに私を家まで送らせるの?あなたは送ってくれないの?」

「グループの方で用事がある」

直樹は冷淡に彼女を見つめた。「もうボディガードを振り切るようなことはしない方がいい。次は今回のような幸運があるとは限らないぞ」

佳織は表情を硬くし、すぐに悔やむような顔で言った。「わざとあなたがつけてくれたボディガードを振り切ったわけじゃないの。ただ、いつもこんなにたくさんの人に付き添われるのに慣れなくて、時々一人になりたいと思っただけ。ごめんなさい、これからはもっと分別をわきまえるわ。もう迷惑はかけないから」