第162章 私こそがここの女主人

一方、美智は電話から聞こえる話し中の音に腹を立て、ベッドに倒れ込んだ。彼女は枕を叩きながら恨めしそうに叫んだ。「武田直樹!!」

待って!

違うわ、彼が私の物を盗めるなら、私だって彼の家に行って取り返せばいいじゃない!

いやいや、何が私の家だの彼の家だの、何が盗むだのって、まだ離婚してないんだから。

自分の家に行って、薬用石鹸を一つ取るだけ、それはごく普通の小さなことじゃない?

ちょうど武田香織が休みをくれたし、今日は丸一日時間があるから、「家に帰って」薬用石鹸を「取りに行く」ことができる。

今日は休日じゃないから、直樹はきっとグループ本社に出勤しているはず。家にいるわけがない。

美智の気分は良くなった。彼女はベッドから出て身支度を整え、自分で栄養たっぷりの朝食を作り、それから香織とビデオ通話で少しおしゃべりした。時間を確認して、ちょうど良いと思ったので、出発した。

武田直樹の別荘に着くと、彼女は暗証番号を入力し、大門が自動的に開いた。

彼女は思わず微笑んだ。直樹は本当に大らかだ、暗証番号さえ変えていない。

彼女の家のドアも彼が同じ暗証番号に設定していた。帰ったら変えなければならない、さもないと彼にとってはまるで存在しないドアと同じだ。

庭を通り抜け、リビングに入ると、彼女は監視カメラを軽く見てから、階段を上がった。

直樹は普段仕事中に監視カメラを見ることはなく、仕事から帰った時だけ時々確認して、定期的に掃除に来る家政婦が彼のプライベートな領域に侵入していないか確認するだけだった。

美智は直樹の多くの小さな習慣を知っていた。例えば、入浴用品は必ずバスルームに置くこと、使わなくても収納室には入れないことなど。

だから彼女は真っ直ぐバスルームへ向かった。

バスルームの中の物は全て彼によってきちんと整理されていて、美智はすぐに棚の上の薬用石鹸を見つけた。

しかし、一つではなく、五つもあった!

そのうちの一つはすでに包装が開けられて使われていた。

美智は不思議に思いながら手に取って見てみると、すぐに理解した。これらは全て彼女が香織にあげたものだった。

これは香織が彼にあげたの?

それとも彼が香織から奪ったの?

この疑問は簡単に解決できる。後で香織に聞けばわかる。

他のものには手を触れず、母が作ったものだけを取った。