第204章 私はさっき足元がふらついただけ

それに、今は離婚できない。もし離婚したら、美智はすぐに今井修平と付き合い始めるだろう。そうなれば、彼女の赤いドレスを脱がせるのは今井修平になってしまう。彼ではなく!

彼はそんなことが起こるのを絶対に許せなかった。

青木佳織は彼の冷酷な表情を見つめながら、心の中で彼への愛情がさらに強くなるのを感じていた。彼女はこういう冷酷無情で手に負えない男性が好きだった。

そういう男性こそ魅力的で、簡単に手に入るものには飽きてしまうからだ。

彼女は廊下の向こう側にいる美智を一瞥した。

確かに彼女はとても美しかった。こんなに惨めな状況でさえも美しく見える。その美しさは嫉妬心を抱かせるほどだった。

でも、どんなに美しくても何になるというの?

彼女の最大の頼りは既に片足を閻魔殿に突っ込んでいるのだから!

佳織は母親が手配した人たちの仕事ぶりに満足していた。

人を殺してしまうわけでもなく、かといって生かしておくわけでもなく、生きるか死ぬかの境界線上に置くことで、美智を最も苦しめることができる。

美智が魂を失ったように痛みに満ちた様子を見て、彼女の心は喜びで満たされた!

彼女はお腹に手を当て、柔らかく優しい声で言った。「直樹、私はあなたの子供を身ごもっているのよ。あなたが私を好きでなくても、子供は好きでしょう?子供のためにも、私に正式な立場を与えるべきじゃないの?」

武田直樹の顔には何の感情の変化も見られなかった。「俺は冷酷無情だ。子供に対しても何も感じない。最初に離婚して君と結婚すると同意したのも、君や子供に名分を与えたいからじゃない。母が要求したからだ。彼女が泣き崩れ、兄の名前を出したから、俺は離婚して君と結婚することに同意しただけだ」

佳織はやっと理解した。武田奥さんが彼女を助けてくれたのだ。だから直樹が彼女との結婚を承諾したのか。以前、毎日武田奥さんの前で泣いていたのは効果があったようだ。

武田奥さんは本当に長男の子供が無事に生まれることを望んでいるのだ!

それならば、武田奥さんを通じて働きかける方が良さそうだ。

「わかったわ。何も要求しないわ。あなたに私との結婚を強制したりしない。でも、私が去る前に、一度だけ抱きしめてくれない?」