美智は焦りに駆られ、素早く全ての銀針を抜き、再び針を打った。
しかし、今回は口や鼻からの出血さえなかった。
美智は再び脈を診ると、顔色が真っ青になって椅子に崩れ落ちた。
老夫人は胸が締め付けられる思いだった。「どうなの、奈々子?」
「おばあさまの脈はまだとても弱いわ。私が何か方法を思いつかなければ、数日ももたないかもしれない」
老夫人も涙を拭い始めた。「どうしようもなければ、市内に連れて行って、青木氏病院の最高の医者に診てもらいましょう」
美智の心にも一筋の希望が灯った。「青木氏病院にはこのような脳の重傷を治療できる人がいるの?」
直樹が突然口を開いた。「試してみる価値はあります。青木氏病院は全国トップクラスの医師を集めていて、以前に脳に銃弾を受けた患者を治療した実績があります」
脳への銃創とこのような広範囲の損傷は少し違うが、どちらにしても青木氏病院が確かに高水準の医療技術を持っていることを示している。
「わかったわ、おばあさまを連れて行きましょう!」
直樹は頷いた。「救急車を手配します。私の車では彼女を運ぶのに適していません」
美智は彼のこの時の細やかな配慮と冷静さに感謝した。「ありがとう」
救急車はすぐに到着し、美智はおばあさまと一緒に乗り込んだ。救急車は猛スピードで走り、午前1時に青木氏病院に到着した。
以前、美智はここに来るのを好まなかった。
しかし今はおばあさまの命を救うことが最優先で、彼女の個人的な感情はすべて無視できた。
青木氏病院は最高級の私立病院の名に恥じず、その夜のうちに専門家による会議を組織した。
美智は救急処置室の外で長い待機を始めた。
直樹と老夫人も側に付き添い、武田朝雄までもが来ていた。
廊下に唐突な足音が響き、美智が振り向くと、青木佳織が妊婦のお腹を抱えてゆっくりと歩いてきた。
佳織は礼儀正しく老夫人と朝雄に挨拶した。
朝雄はそっけなく応じた。
しかし老夫人は彼女に返事をせず、自分の嫌悪感をすべて顔に表していた。
佳織は顔を曇らせたが、それでも温和な態度を崩さず、怒りも悲しみも見せず、その自制心は見事だった。