一日中街を歩き回って、別荘に戻ったのはすでに午後7時だった。
シャワーの音がさらさらと響き、鈴木瑠璃はバスルームでシャワーを浴びながら、すりガラスのドアの外から重々しい足音が聞こえてくるような気がした。
細い手でそっとシャワーを止め、濡れた髪にはまだ泡が付いていた。彼女は動きを止め、外の背の高いシルエットをじっと見つめた。「誰?」
陸田謹言の手はドアノブの10センチ上で止まった。バスルーム内から瑠璃が泥棒でも見つけたような声を聞いて、一瞬驚き、その後心に軽い不快感が湧いた。
彼女のその口調は、彼を隙を狙う獣のように思っているのか?
「中に君がいるとは思わなかった。すまない」
一言説明し、謹言は冷たく背を向け、バスルームのドアから離れた。
瑠璃は再びシャワーをつけ、素早く体の泡を洗い流した。大きなタオルで髪を拭いている時、彼女は悲しいことに気づいた。着替えを持ってきていなかったのだ!
結婚して1年、謹言が家に帰ってきた回数は合わせても5回を超えない。この別荘には彼女と若い女性メイドしかいないので、瑠璃は家ではいつも気楽にしていた。彼女は謹言が突然帰ってくるとは思ってもみなかった。
彼の白月光である楚田汐と一緒にいないで、なぜ元妻の家に来るのだろう?!
謹言は書斎のソファで少し休んでいたが、頭の中にはすりガラスのドアの向こうにあったぼんやりとしたシルエットが、どうしても消えなかった。
彼女の夫として...元夫として、彼は彼女が入浴後の姿を見たことさえなかった。彼女に対する印象は、ただ美しいということだけにとどまっていた。
さっきのあの瞬間、彼の心は思わず一拍抜けてしまった。
机の上に小さな物があり、贅沢な輝きを放ち、彼の注意を引いた。
謹言は立ち上がって近づき、それを手に取った。指輪だった。
サイズから見ると、瑠璃が外したものだろう。
婚約指輪を選ぶとき、彼は彼女に付き添わなかった。瑠璃は嬉しそうに様々な指輪のデザインを送ってきて彼に選んでもらおうとしたが、彼はただイライラして「適当に」と返信しただけだった。
謹言はこの指輪を握りしめ、心に何か見慣れない感情が湧き上がってきた。
そのとき、外から携帯の着信音が聞こえてきた。
しつこく鳴り続け、誰も出ない。