小山星河の視点から、彼女の白く細い首筋がはっきりと見え、かすかに漂う香りが彼の意識を侵していた。
心の中に欲望が芽生え、この瞬間がずっと続けばいいのにと願った。
しかし、二人きりの時間はそう長く続かず、鈴木瑠璃の車は勝タワーの前で止まった。
星河はゆっくりと手を離し、頭上に掲げられた大きな「勝」の文字を見つめた。「君の職場は、ここなの?」
瑠璃はまだ彼をスカウトする本題を忘れておらず、うなずいて探りを入れるように言った。「どう?なかなか立派でしょ!芸能界の大半のスターは勝が育てたんだから!」
星河が気にしていたのはただ一つのこと。スマホを取り出して彼女のWeChatを追加しようとしたが、頭の中に丁野遥の言葉が浮かび、再びスマホをズボンのポケットに戻した。
瑠璃は彼がもうあまりめまいがしていないと判断し、「一人で帰れる?」と尋ねた。
弟分は何かの拍子に気分を害したのか、まつげを伏せ、一言も発せずに向きを変え、バイクに乗って風のように去っていった。
会社のビル前に一人残された瑠璃は、頭を抱えて「急にどうしたの?」と首をかしげた。
…
その夜、家に帰ると丁野遥から電話がかかってきた。驚いた様子の声で「瑠璃、どうやったの?星河が勝のことを聞いてきたよ。彼、君と同じ会社に行きたいんじゃないかな!」
「それは良かった!彼に私が勝映画を担当していることは言わなかった?」瑠璃はフェイスマスクをつけたまま、ベッドから起き上がった。
「それは...言ってないよ!」遥は少し心虚そうに答えた。
彼女の関心はすべて瑠璃のハンサムなボス、木村佑に向けられていて、そのことをすっかり忘れていたのだ。
「彼が契約する意思があったら、勝本社の最上階のオフィスで私を訪ねるように伝えてね。」
「わかったよ、もう切るね。夜更かしは美女の天敵だから!バイバイ〜」
「ちょっと——」
瑠璃は口角を引きつらせながら、静かに携帯を枕元に投げた。
スキンケアを終え、アロマキャンドルを灯し、ちょうど横になろうとしたとき、遥からまた電話がかかってきた。
瑠璃は手に取るとスピーカーフォンにした。
「もしもし、瑠璃、大変なことになったよ!」
「何があったの?」