素早く車に乗り込んだ鈴木瑠璃は、バラの花を手に持ったまま適当に脇に置き、マスクを外した。「次は手伝わないからね!」
「うん、次はない」
彼女が寂しげに脇に放り投げたバラを見て、陸田子墨の目が少し暗くなった。「気に入らない?」
「何が?」彼の視線の先を見て、瑠璃は「あ」と声を上げた。「小道具じゃないの?」
陸田子墨:「……」
前方で運転している森田澤は思わず笑みを漏らし、このバラは明らかに君にプレゼントしたものなのに!と心の中でつぶやいた。
ああ、鈴木さんに一度彼女を演じてもらうために、子墨社長も苦労しているな!
車は高級な七つ星ホテルの前で停まった。
従業員に案内されて広々とした個室の入り口に着くと、瑠璃は顔を上げて子墨を見た。
「アレンは中にいるの?」
子墨は彼女を見下ろし、唇の端に少し笑みを浮かべた。「頼むよ、彼女」
瑠璃はもともと緊張していなかったが、彼にそう言われると、まぶたが一瞬痙攣した。
中にいるのはファッション界の女帝アレンだ!
ファッション業界で彼女が最も尊敬する神様!
以前、彼女はこの大物と繋がりを持ち、河坊やに最高級のファッションリソースを確保するためにN通りの方法を考えていたが、まさか恋敵として対面することになるとは……
本当に気まずい。
子墨の手がドアを開けようとするのを見て、瑠璃は突然苦しそうに眉をひそめた。「子墨社長、ちょっとトイレに行きたいんだけど!」
彼女が逃げ出そうとするのを予想していたかのように、子墨は容赦なく強引に彼女の肩を抱き、個室のドアを開けた。
瑠璃:「……!!」
目の前の景色が一気に広々と明るくなり、クリスタルのシャンデリアから垂れ下がる細かな輝きが贅沢な光を放っていた。
白いテーブルクロスの上には、洗練された上品なナイフとフォークが並んでいた。
テーブルの横には、淡い金髪の若いイケメンが椅子に座っていた。シンプルでスタイリッシュな茶色のシャツに白いパンツを合わせ、襟元から覗く鎖骨のラインがくっきりと細く見えた。
ドレスを着た長髪の貴族の女性を想像していたのに、驚くほど魅力的な外国人の青年だった。
瑠璃は一瞬驚き、子墨の側に寄って爪先立ちになった。「子墨社長……」
子墨は少し頭を下げ、耳を彼女の唇に近づけた。「うん?」